“朝令暮改"という四文字熟語は、経営者の評価を表すときなど、良い意味で使われたり、悪い意味で使われたりと、結果次第でどちらにも引用される。そして、F1の世界においても“朝令暮改"はひんぱんに発生する。その多くはマシンの空力パーツなどへの規制なのだが、今回は予選ルールそのものがひっくり返った。今季開幕から導入された新方式がたった2戦で、昨年までのものに戻されたのである。

ここで軽くおさらいする。F1は今季から、予選が始まって一定時間が経過後は90秒ごとにその時点で最下位のドライバーが切り捨てられていく新ルールを導入した。テレビ中継でマシンがより長く画面に映ることを重視した措置だ。しかし、シーズン前からドライバーやチーム関係者には不評だった。そして、実際に運用してみたところ、これまで予選の醍醐(だいご)味とされていた“残り5分の緊張感"と言われていたものがなくなったばかりか、マシンが走行しているだけの何とも退屈な予選となってしまったのだ。

この失敗にはF1界のボスであるバーニー・エクレストンも非を認めるしかなく、ニコ・ロズベルグ(メルセデス)が開幕三連勝を飾った中国GP(17日決勝)のQ3は、昨年までと同じ形式の上位10台が競い合う予選へと戻ったのだ。

では、何が失敗だったのか? F1を戦った経験のある日本人ドライバーの中嶋一貴と山本左近が、その理由を教えてくれた。

「F1のタイヤというのは、タイムを出せるのは、新品で1周あるかないか。本当に高いグリップ力を発揮する瞬間というのは、それくらい短いものなんです。しかも、決勝レースにも新品タイヤを残すように予選を戦うので、予選で勝負できるのは多くのドライバーにとって1回か2回です」と山本。

その意見に同意するように中嶋が言葉を続けた。

「つまり、グルグルと予選中に走り続けても、タイムはもう落ちるばかりですから、パレードをしているようなものなんです。F1はギリギリの戦いですから、そんな無駄なことをチームがするはずもない。例えタイヤが無制限に使えたとしても、Q1からQ3までの時間を逆算すると、アタックできる回数もやはり各2回程度です。というのも―コースに出るタイミングですが―、トップチームは残り時間ギリギリの路面状態が良くなる場面を狙いますから、雨でもない限り、早く出る理由がありません」

現代のF1は高額な放映権料によって支えられている。“お得意様"であるテレビを重視したからこそ行ったルール変更だったが、肝心の放送内容がつまらなくなってしまった。だからこその“朝令暮改"だったようだ。(モータージャーナリスト・田口浩次)