17日、トヨタ・レーシングの中嶋一貴が元気な姿で成田空港に降り立った。中嶋は参戦しているWEC(世界耐久選手権)第2戦(ベルギー・フランコルシャン)、雨中で行われたフリー走行で後続車を抜いたときに受けた水しぶきにより視界不良となり前方を走行していたアウディに追突する形でクラッシュした。帰国した中嶋に、そのクラッシュとその後の経過について語ってもらった。

「クラッシュ後、すぐにオフィシャルがやって来ました。その時点で背中に強い痛みを感じていたので、それを伝えるとオフィシャルから自分から(マシンを)降りないようにと指示を受けました。その後、ドクターがやってきて救出され医務室へ運ばれました。そこでは聞き取りと血圧を測った気がしますが、よくは覚えていません。そしてサーキットに近い施設がそろった病院に運ばれ、MRIとCTスキャンを受けて脊椎損傷(背骨骨折)が判明しました。幸いチームドクターがこうしたけがの治療にたけたニースの病院を知っていたので、移動ができるまでは安静にして、ニース移動後に骨折部分にセメントを注射で入れる治療を行ったという流れです」

脊椎損傷(背骨骨折)という大きな事故であったが、幸いにも神経には影響がなく治療を終えて無事、日本へ帰国した。今後は検査をしつつ、いち早くサーキットに戻れるタイミングを見極めると言う。

雨天の中行われた昨年のF1日本GP決勝ではコースアウトしたマルシャのジュール・ビアンキが、マシン撤去のためコース外に置かれていたトラクターへ衝突するという大きな事故があった。ビアンキは現在もニースの病院で治療を受けている。F1では1994年5月1日に発生したアイルトン・セナの事故以後、死亡するクラッシュは発生していないものの、それ以外のレースカテゴリーでは、2011年にアメリカのインディカー・シリーズでダン・ウェルドンが決勝中に死亡。フォーミュラ2では、09年にはF1の元王者であるジョン・サーティースの息子、ヘンリー・サーティースが死亡している。

サーキットでよく言われるこんな話がある。どんな女性もレースの現場でレーシングドライバーに口説かれたら惚れてしまう…と。それは、死を感じさせるレース特有の危険な一面にはモータースポーツに興味がない女性ですら引かれてしまうという魅力を伝える一つの例え話だ。もちろん、モータースポーツの安全性は年を追うごとに向上している。しかし、決して完璧ではない。中嶋のクラッシュも、ひとつ間違えば重大な事故になる可能性があった。

危険をはらんでいるからこそ、そこで競うドライバーやチームスタッフたちは覚悟を持って戦っている。F1などでは人気低下がささやかれているが、決してこの先も廃れることはないだろう。厳しい戦いの世界だからこそ、人々を熱狂させる力がモータースポーツにはある。(モータージャーナリスト・田口浩次)