プロ野球が開幕し、2年連続Bクラスの中日は5シーズンぶりの7連勝を飾るなど予想を上回るスタートを切った。2年目を迎えた選手兼任の谷繁監督率いるチームで、何と言っても今季の一番の注目は現役最年長の山本昌投手だろう。昨季、最年長勝利の新記録を打ち立てた左腕は8月に50歳となり、今季白星を挙げれば米大リーグの記録をも上回る。

2月、沖縄・読谷での2軍キャンプ中、山本は宿舎と球場を結ぶ片道約2キロの道のりを毎日歩いて行き来する。「好きな時間に出られるし、ちょうどいい距離だから」と、年下の選手や首脳陣が車に乗るのを尻目に、実に「10年以上」もルーティンとして続けている。2軍へ取材に行った報道陣も練習後に一緒に歩くのが恒例となり、いつしかその道は「マサロード」とも呼ばれるようになった。歩くとはいっても、そのペースはかなり速い。186センチの巨体は大股でずんずんと進み、メモをとりながらついて行くのはひと苦労。天気のいい日は汗だくになる。

道中に何か特別な物があるわけではない。球場の隣にある村役場の駐車場を抜け、中学校の横を通り過ぎると、建物はなくなる。かつて米軍の飛行場があったという広大な土地は、今は一面のサトウキビ畑。何の変哲もない穏やかな風景に思えるが、山本昌にとっては自身のプロ野球人生の年輪が刻まれた道だ。「ここも変わったよね。昔は舗装も全然だったし」と感慨深げに話す。そんなマサロードでは、さまざまな表情を見せる。時事問題への意見を口にしたり、茂みから動物が飛び出すのを見ては「あっ、イタチ。こういうのテンション上がるんだよ」と無邪気に喜ぶ。侍ジャパンのメンバーが発表された時には「一回、日の丸を背負ってみたかった。オーバー50(50歳以上)の枠とかあったら入れそうだけど。僕の全盛期はアマチュアだけだったから」と冗談交じりに日本代表への思いも語った。

キャンプも終盤にさしかかった頃、いつものように宿舎に向かいながら「こんなのももう最後だろうね」とこぼした。これまでにも何度も同じようなせりふを口にしたが、いつになく実感がこもっていた気がする。記録更新を期待する周囲とは裏腹に本人はいたって冷静だ。「9割方、最後だね。50なんてどう見てもいい区切りでしょ」。弱音というよりは、本音だろう。常識的に考えれば当然なのだが、毎日そんなことを考えてこの道を通っていたかと思うとなんだか寂しくなった。山本昌を見つけると、近所の住民は車を止めて、体育の授業中の中学生はソフトボールの試合を中断して「昌さーん」と手を振る。山本昌も「どうもー」と快く応じる。長年、続いてきた読谷の日常がことし限りでなくなるとは想像できない。

昨年のキャンプでは、ソチ冬季五輪で銀メダルを獲得したスキージャンプの葛西紀明の活躍に感激し「『レジェンド』が流行語になるかもね」と話していた。すると、実際に流行語のトップ10に選ばれ、葛西の代わりに表彰式に出席。「本当になっちゃった」と目を丸くした。味をしめたかのようにことしも「また何か夢のある話がないかな」と報道陣に問いかけた。そして、数メートル歩き、ひらめいた。「日本シリーズで僕が投げるとか」。31年間でいまだ未勝利の大舞台で50歳にして初白星、さらには日本一の胴上げ投手…。ぜひ再び“予言"を的中させてほしい。

キャンプでは順調な仕上がりを見せたが、3月上旬の初実戦で膝を痛め、現在は2軍で調整する。初登板への見通しは立っていないが、数々の修羅場をくぐり抜けてきた大ベテランのことだから、ナゴヤドームのマウンドで再び勇姿を見せてくれるに違いない。

吉本泰平(よしもと・たいへい)1988年生まれ。北海道出身。2011年入社、富山支局を経て13年より名古屋運動部。現在は一般スポーツを担当。