面白いチームが生まれそうな予感がする。ハリルホジッチ監督が日本代表の新指揮官に就任して約半月。初の実戦となったチュニジアとウズベキスタンの2試合を連勝で終える最高のスタートを切った。結果はもちろんだが、膠着しかけていたチームに短期間で新たな刺激を注入した手腕がそう思わせるのだ。

一番の変化は、単純にサッカーの原点に立ち返ったことだ。ゴールを狙い、失点を防ぐ。相手の守備ラインの背後にスペースがあれば、得点に直結する縦パスを狙う。そして、これまでフィジカルの弱さを補うためにあえて避けてきた1対1の局面で、体を張って積極的に勝負に行く。2試合で見せた厳しさのあるプレスは、近年の日本代表には見られないものだった。

ボールのポゼッション率は高いものの、そのほとんどが相手に脅威を与えない逃げのパス。ブラジルW杯やアジアカップでは、一見主導権を握っているように見えても、ガッチリと固められた相手守備陣の外側でボールを持たされていたという感があった。その戦いぶりを見て「なんで勝負をしないんだ」と思っていた人も多いはずだ。

確かに、ボールを保持している時間が長いと相手に攻められる回数も少ない。そして、相手守備陣形のほつれを探し出す時間的余裕も生み出される。ただ、フィニッシュに至る最後の局面では、狭いスペースで能力を発揮できる個の力が必要になってくる。それを芸術にまで高めたのが、少し前のバルセロナ。同じようなサッカーを志向しても、残念ながら日本代表にはメッシやイニエスタのような異能者は存在しないというのが現実だ。

ボール・ポゼッションを主眼に置いたサッカー。日本代表元監督のザッケローニが植え付けた戦術は「王者のサッカー」だ。それはミラン、インテル、ユベントスと、豊富なタレントを擁するイタリアのビッグクラブを率いたことで築かれた哲学だろう。そして、ザッケローニのサッカーは、アジアでは一枚抜けた存在となった。だが、ある時期からゴールを奪うことより、ボールを保持することに力が注がれるようになった。結果、そのサッカーはW杯では通用しなかった。

それを踏まえると、ハリルホジッチ監督のサッカーはより現実的だ。これまで率いてきたチームの実力も関係しているのだろうが、「弱者が大物を食うためのサッカー」だ。得点が一番簡単に奪えるのは、GKと1対1の局面を作り出すこと。ウズベキスタン戦の前半で3回のオフサイドがあったが、それはDFラインの裏を狙うパスが多かった証拠といえる。ショートパスを回し続けていたアジアカップまでの日本代表にはほとんど見られなかった現象が、データとしても表れていた。

それにしても、ハリルホジッチ監督はなかなかの策士だ。「より多くの選手を確認したい」と言って2試合で招集されたフィールドプレーヤー全25人を使い切った。第1戦のチュニジア戦では、藤春廣輝(G大阪)や川又堅碁(名古屋)の初代表組を使いながらも、相手に疲れの見え始めた後半に攻撃陣を計算のできるメンバーにチェンジ。岡崎慎司(マインツ)と本田圭佑(ACミラン)のゴールで大事な初陣の結果を導き出した。

第2戦のウズベキスタン戦では、前半に青山敏弘(広島)のスーパーゴールで先制すると、後半は相手が前に出てくるのを見越して、あえて守備ブロックを下げた。ハリルホジッチ監督の言葉によれば「罠を仕掛けた」というが、空いたスペースを効果的に使い、カウンターから4得点。決して目新しいことをやっている訳ではないのだが、具体的で誰が見ても分かりやすいサッカーからは、久しく遠ざかっていた躍動感が伝わってきた。

準備期間も限られている。しかも、まだ2試合を終えたばかりなので断言はできない。ただ、新しい日本代表の2ボランチはガッツリと体を張って守れる選手が基本になるのだろう。それはウズベキスタン戦の後半から本来はセンターバックの水本裕貴(広島)を「一度の経験もない」というボランチに入れ、本来はボランチの柴崎岳をトップ下で起用したことからも推察される。

さらにセットプレーでも変化が出た。これまでCKを蹴っていた本田がゴール前にポジションを取るようになったのは、大きい選手はゴール前にという考えがあるのだろう。

アギーレ前監督の就任時にはあまり感じられなかった変化が今回はある。代表デビューを飾った宇佐美貴士(G大阪)や川又がゴールという結果を出した。今回は招集されなかったJリーガーも含め、競争はますます激しくなるだろう。そして新メンバーを起用しながらも、チームのバランスはとてもいい。それを考えれば、予想外だったアギーレ前監督との契約解除で監督交代を迫られた日本協会だが、条件面など含めた選択肢のなかで、最高レベルの監督を連れてきたのかもしれない。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。