オリンピックや世界選手権の金メダルのように万人が認めるタイトルではない。それでも、ノルディックスキーのジャンプに挑む怖いもの知らずの選手たちが憧れるものがある。それが「世界最長記録」だ。2月のワールドカップ(W杯)では実に4季ぶりに新しい世界記録が生まれた。舞台はノルウェーのビケルスン。ヒルサイズ(HS)225メートル、K点200メートルで、世界でも欧州に五つしかない「フライングヒル」の中で最も大きなジャンプ台の一つだ。

ビケルスンの台はランディングバーンに特徴があり、踏み切りで十分な高さを出せなかったり、空中でスピードをロスしたりするとK点のはるか手前に落ちる。しかし、うまく飛べば、160メートル付近で雪面にぐっと近づいたあと、そこから浮き上がるようにして伸びていく。

2月14日の個人第23戦は緩い向かい風が吹く絶好の条件。優勝したペテル・プレブツ(スロベニア)は1回目に237・5メートルでトップに立ち、2回目に250メートルまで伸ばして世界記録を3・5メートルも更新した。

翌15日の個人第24戦予選ではドミトリー・ワシリエフ(ロシア)が254メートルまで飛び、着地で後ろに倒れて後頭部を打った(転倒のため世界記録と認められず)。続く本戦では、地元ノルウェーのアンデシュ・ファンネメルが1回目に圧巻の飛躍で観衆を熱狂させた。高い飛行曲線で160メートル付近をクリアし、終盤に風の浮力を受けて伸びた。HSを軽々と越えて、尻もちをつきそうになりながら着地したのは251・5メートル。滞空時間が8秒以上にもなる特大のジャンプを成功させ「ワシリエフの254メートルを見て、いけると思った。風の条件も完璧で、生涯最高のジャンプができた」と興奮気味に話した。

200メートル以上の飛距離で優勝を争うフライングヒルの試合は常に大人気で、W杯やフライング世界選手権には数万人のファンが押し寄せる。近年はよりダイナミックなジャンプで観客を盛り上げようと、ジャンプ台の改修が続いている。

「世界最大のジャンプ台」は長い間、HS215メートルだったスロベニアのプラニツァで、2005年にビョルンアイナル・ロメレン(ノルウェー)がここで239メートルの世界最長を記録した。ビケルスンは11年に大型化し、2月11日にヨハンレメン・エベンセン(ノルウェー)が243メートル、246・5メートルを続けてマークした。

今季は世界最長記録をビケルスンから奪おうと、オーストリアのバートミッテルンドルフが工事を完了させ、HS225メートルになった。競うようにプラニツァもジャンプ台を造りかえた。

大詰めを迎えた今季のW杯は、新装されたプラニツァで3月19日から行われる団体1試合、個人2試合でフィナーレを迎える。主催者側は「新しいジャンプ台はすべての面で以前より10~12メートル大きい。世界記録を出すことは可能だ」と鼻息が荒い。ビケルスンでの個人第24戦で240・5メートルまで飛び、日本最長記録を塗り替えた葛西紀明(土屋ホーム)は「もちろん世界記録を狙う。250メートルは越えたい」とプラニツァでの大飛躍を誓った。

伊藤 慎吾(いとう・しんご)1973年生まれ。北九州市出身。98年共同通信入社。サッカーの2002年、06年ワールドカップやアテネ、バンクーバーの夏、冬五輪を取材。11年からロンドン特派員としてサッカー、スキーなど幅広くカバー