テニスの四大大会第1戦、全豪オープンが1日に幕を閉じた。日本人として四大大会初優勝が期待された錦織圭(日清食品)は3年ぶりのベスト8入りを果たしたものの、準決勝には進めなかった。128選手が出場し、優勝まで7試合を戦う世界最高峰の大会を勝ち抜くのは難しい。そのことを痛感させたのが、準々決勝で錦織に完勝しながらも、準決勝で敗れて2連覇を逃したスタニスラス・ワウリンカ(スイス)の言葉だった。

スイスのテニス選手といえば四大大会17勝のロジャー・フェデラーがすぐに思い浮かぶ。「第2の男」だったワウリンカは昨年の全豪オープンで優勝し、一躍脚光を浴びた。昨年11月の国別対抗戦デ杯決勝では母国の初優勝に貢献し、今季ツアー初戦も制した。昨年終盤から、これまでにない充実ぶりで全豪に臨んだ。

4回戦まで落としたのはわずか1セット。フェデラーが3回戦で敗退する波乱が起きる中、安定感は抜群だった。迎えた準々決勝の錦織戦は、序盤から武器である片手バックハンドのクロス、ストレートがさえ渡った。

錦織からすれば、準優勝した昨年の全米オープンの準々決勝で、フルセットの接戦を制した相手。しかし、「最初から押されてプレッシャーをかけられた」「どうしたらいいのか、見えてこなかった」と相手の違いに驚きを隠せなかった。錦織の関係者も一様に「相手が良すぎた」「あんなプレーをされれば勝つのは難しい」とうなった。ワウリンカが素晴らしいプレーをしたことが、敗因の一つだった。

そのワウリンカが準決勝で当たったのは、第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)だった。好調な前回王者と優勝候補が対戦する試合は好ゲームが期待され、フルセットにもつれ込んだ。しかし、内容は両者ともにミスが多く、互いに「ベストのゲームではない」と口をそろえた。いわば乱戦の末に、ワウリンカの2連覇の道は閉ざされた。

驚いたのは、敗戦後のワウリンカの記者会見だった。実は、準決勝を迎える前に「精神的に参ってしまい、バッテリー切れの状態になっていた」と打ち明けた。昨季の終盤はデ杯でいい成績を残そうと必死になり、短くなったオフは新シーズンで好スタートを切るために厳しい練習を積んだ。自らを追い込み続けた代償で、精神的にいつ疲れが出てもおかしくない状態だった。錦織戦を終えて「その時が来てしまった」(ワウリンカ)ことから考えると、錦織との対戦も大きな影響を与えただろう。

ワウリンカは大会後、世界ランキングが4位から9位に転落した。ジョコビッチは「前回王者という環境と向き合うのは簡単ではない」と思いやった。

翻って、錦織はどうだったのか。今大会は、1968年のオープン化以降、日本男子最高の第5シードで臨んだ。昨年の全米オープンで準優勝して以降、周囲の注目度や期待は以前と比べものにならないほど高まり、ライバルたちの見る目も変わった。それでも、4回戦で難敵のダビド・フェレール(スペイン)を圧倒してストレート勝ちするなど、苦しみながらも実力を発揮して8強入りした。「自分のやることというのは以前と変わらない。(重圧で)雑念と無駄な労力を使うことだけはしたくない」という言葉通り、周囲の変化に惑わされる様子は少なかった。

悔しさを残しつつ、世界トップ選手として戦ったグランドスラムを終えて「今までにない経験ができた」と充実感も口にした。大会後の世界ランキングでは、ジョコビッチ、フェデラー、ラファエル・ナダル(スペイン)、アンディ・マリー(英国)の「ビッグ4」が上位を占めた。経験豊富な実力者の壁はいまだに厚く、行く手には数々の困難が待ち受けていそうだが、日本人初の偉業に向けてさらなる成長に期待したい。

渡辺匡(わたなべ・ただし)2002年共同通信入社。和歌山支局、大阪社会部などを経て11年から運動部。ラグビー、テニス、スケートなどを担当。東京都出身。