ボールを扱う技術では、おそらく日本のほうがうまいだろう。プレッシャーの弱い中盤でパスをつなぐ本数を競うなら、これも日本に分があるはずだろう。ただ、真剣勝負の場でサッカーという競技をやらせたら勝敗は分からない。数週間前までアジアでは保たれていた日本の優位性は失われてしまったのではないか。そんなことを思い知らされたアジアカップ決勝だった。

日本代表の試合を見ているとあまり感じないのだが、サッカーはやはり「戦う」スポーツだ。オーストラリアと韓国の一分の隙もない肉弾戦を目の当たりにすると、改めてそのことに気づかされる。同時に、他の大陸と比べれば決してレベルが高いとはいえないアジアであっても、頂点に立つには強い意思と覚悟が不可欠なのだ。

戦うことの最大の原動力となるのは強い意思だ。他の種目でも、成功を収めたアスリートは「このような強靭な精神力をどこに秘めているのだろう」と思わせることが多い。トップアスリートは、当然のごとく究極の負けず嫌いだ。負けることを許容しているようでは、トップのポジションにたどり着くことなど到底できないからだ。その国を代表するトップアスリートで編成されたチームが、国際大会でタイトルを懸けて戦う。その際、両チームに多少の技術の差が存在したとしても強靱な意志で埋めることができる気がする。

ベスト8で大会を去った日本。そして、決勝を戦ったオーストラリアと韓国。昨年のブラジルW杯にも出場した3チームを比べると―スタイルの違いこそあれ―チーム力にさほどの差はないだろう。だが、アジアカップファイナリストと日本では、試合に臨む際の覚悟に大きな差があったのではないだろうか。

日本のスポーツ界にいまだ残る、根性優先の考え方。サッカー界はJリーグ発足によって、いち早く根性主義から脱却したとされる。サッカー先進国の指導者やJ発足当初に各国から加わった一流プレーヤーの影響で、日本のサッカーはより論理的、かつ科学的になった。ただ、それによって置き忘れたものもある。相手を引き倒してでも乗り越えていくという「気持ち」の部分だ。

技術で相手を圧倒すれば、余計なコンタクトをしなくてもいいという考えも確かにある。しかし、日本の選手たちがそこまでの違いを生み出せるレベルにあるとは思えない。アジアを舞台にしても、欠けていたのは意思や覚悟といった「気持ち」だったのだろう。

日本の選手たちは“スマート"だ。プレーもそうだが、ハート(気持ち)の部分でもそう感じることが多い。それは現代的で格好いいことなのかもしれないが、その反面で見る者の心に響く熱さは伝わってこない。

「自分たちのサッカーを楽しもう」

近頃、このような言葉をよく耳にする。修行僧でもないのだから、苦行だけのサッカーはナンセンスだ。ただ、日本代表は代表選手個人のチームではないことを自覚する必要があるだろう。ディエゴ・マラドーナは16歳、クリスチアーノ・ロナルドは18歳でA代表デビューを果たしている。日本でいえば高校年代だ。それを思えば日本代表というチームは、海外組や一部のJリーガーだけではなく、大学生や高校生をも代表するチームだ。その責任感というものを、ブラジルW杯、そしてアジアカップを戦った日本代表選手たちが自覚していたのかは、はなはだ疑問だ。

自分自身のための努力には限界がある。しかし、誰かのために尽くそうとしたときにはその限界点が上がる気がする。日本という国に忠誠心を示せという気はない。ただ、代表選手に自国の全フットボーラーを代表して戦うという覚悟があれば、終了のホイッスルが鳴る瞬間まで勝利を追求するはずだ。

アジアカップ決勝。結果的に1-2で敗れはしたが、90分間で敗戦濃厚だった韓国が後半のアディショナルタイムで奇跡的な同点劇を演じた。孫興民のゴールを生んだのは、センターバック・郭泰輝を前線に上げてパワープレーを仕掛けた執念の賜物だった。勝負に対してひた向きに、必死に戦う姿は、たとえ他国のチームであれ感動を伝えてくれる。技術では劣るが、心=気持ちが感じられるという意味では、高校サッカーも同じことがいえるのではないだろうか。

3日、八百長事件の告発がスペイン検察に受理されたことを確認した日本協会は、アギーレ監督との契約を解除した。図らずも、そのアギーレ監督が昨年8月の日本代表監督就任会見で語っていたのが次の言葉だった。

「代表チームは、とにかく国を代表して、国を背負って戦っていることを肝に銘じて欲しい」

残念ながら、アギーレ監督のチーム作りは道半ばにして途切れた。しかし、今後日本代表のユニフォームを着るすべての選手が忘れてはならない重みのある言葉だろう。

それにしても、うかうかできない状況になった。自国開催でアジアカップ初制覇を飾ったオーストラリアの盛り上がり方は、1992年の日本と同じだ。しかも当時の日本とは違い、W杯出場4度という経験がある。大会を通して成長を見せた韓国も含め、日本は一気に差を縮められた。早急な手当てをしなければ、危機的な状況が訪れるかもしれない。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。