こんな試合はめったに見られるものではない。シュート35本のチームが、わずか3本のチームに屈する。PK戦による敗退は記録上では「引き分け」だが、トーナメントの次の段階に駒を進めることができなかったのだから、紛れもない負け試合だ。

無責任な立場なら、番狂わせは愉快なものだ。しかし、これが自国チームだと「何をしているんだ」という怒りが先に立つ。アジアカップ準々決勝でUAE(アラブ首長国連邦)と対戦した日本が、まさにそうだった。

このところの日本選手たちのサッカーに対する考え方で、よく理解できないことがある。それは「われわれのほうがいいサッカーをしていた」というフレーズによく表れている。UAE戦後にFW本田圭佑が口にしたそれだ。思えば昨年のブラジルW杯。ギリシャ戦後でも同じ言葉を耳にした。「日本のほうがいいサッカーをしていた」。今になって考えると、この言葉は日本選手たちの都合のいい逃げ道になっていたのではないだろうか。

サッカーはフィギュアスケートのような採点競技ではない。採点競技であれば、自分の納得する演技が優先されるのだろう。順位はその後についてくる。ただ、サッカーはゴール数の多さで優劣を決める競技だ。ならば、「いいサッカー」より「勝つ」ということが優先されるのは火を見るより明らかだ。両者が共存していれば、それにこしたことはないが、現在の日本代表はボールを支配しても、勝利の必須条件である得点が効率的に伴っているとはいえない。

UAE戦はギリシャ戦と同様、日本のボール支配率は6割を超えていた。相手を圧倒してしたのだ。しかし、掲示板に示された数字は1―1。0―0だったギリシャ戦と同じ引き分けに終わった。いくらボールを支配しても、スコア上は何一つ相手を上回ることができなかったのだ。

決定機を作り出すことだけで満足感を得る選手のメンタル面。ここ20年で飛躍的に進歩した日本だが、次の段階に進むため意識を変える時期に差し掛かっているのだろう。目的は、美しい技術や連携で相手を翻弄することではなく、ゴールという「実利」。それに早く気づくことだ。泥臭いゴールでも、1点の価値は変わらない。

例えるなら現在の日本代表は、才能あるが商売っ気のない“貧乏"画家だ。素晴らしい絵を描いても、アトリエにため込んでいる。それでは生活は楽にならない。絵を売って初めて生活費を得られる。そして、サッカーにおける“金銭"とは、ゴールに他ならない。

直截的にゴールという実利を目指す他国選手に比べ、日本人選手のメンタリティはかなり特殊だ。自分がヒーローになるより、味方に手柄を立てさせたいという思いやりが強過ぎるのだ。教育によるものかもしれない。確かに美徳ではあるが、勝負の世界では思わぬ足かせになることもある。自分で勝負を決めてしまおうという積極性に欠けるのだ。

面白い話がある。世界のサッカー少年の誰もが知っている漫画『キャプテン翼』についてだ。日本では華麗なラストパスを通す大空翼や岬太郎(彼らも信じられないゴールを決めるが)が人気なのに対し、海外ではストライカーの日向小次郎が圧倒的人気なのだという。外国の少年が一番憧れるのは点を取れる選手なのだ。一昔前、欧州に住む友人が「だから日本人選手は中田英寿や小野伸二のようなすごいパッサーはいるけど、本当の点取り屋がいない。『キャプテン翼』の影響だよ」と笑いながら話していた。一理あるかもしれない。それを考えると『キャプテン翼』を読んで育ってきたであろう多くの日本選手たちのメンタリティを変えるのは、そう簡単なことではないのかもしれないのだが。

現在の日本代表選手はそのような過去があったことは知らないだろうが、相手に圧倒されながらも勝利を目指したUAEの戦い方はかつての日本を見るようだった。技術、戦術では劣っていても数少ないチャンスを生かして勝機を見いだす。技術的に優れる現在の日本選手たちが、そのような考えを少しでも持っていれば、少なくともアジアでは圧倒的な強さを見せるだろう。逆に今回のように力量で劣る相手に対してもゴールを奪えないという現実を目の当たりにすると、W杯で互角以上の実力を持つ相手と対戦した場合、勝利を望むのはかなり厳しい。

技術、戦術を高めるのはもちろん不可欠だ。ただ、その前にサッカーという競技が何であるかをもっと考えよう。例えば、延長前半早々に右足太ももの肉離れを起こした左サイドバック(SB)の長友佑都をなぜ、ポジションに置いたままにしたのか。この場面は、右SBの経験も豊富なMF長谷部誠が右、右SBの酒井豪徳が左へそれぞれ移動し、長友を影響の少ない前のポジションに上げるのだと思った。だが、選手は自らその判断を下せなかった。それどころかDF森重真人は走れない長友にパスを回すという暴挙に出た。

アギーレ監督もアギーレ監督である。長友の故障に気づきながら、延長後半に入るまでポジション変更の指示を出さなかった。「この人は冷静な判断を下せる指揮官なのだろうか」という疑問さえ抱いたのも当然だ。

日本サッカーの最高峰であるA代表に上り詰めた選手でもこれである。日本人はまだまだサッカーを知らない。人で固めたUAEゴール前。バカ正直に大振りのシュートでブロックに合う光景を見ながら、気の利いたブラジル人なら、タイミングを外すトーキックで簡単にゴールをこじ開けていただろ。そう思いながら、苦笑しか出ない敗戦を見届けた。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。