阪神タイガースとの日本シリーズに勝ち、2度目の日本一に輝いたソフトバンク・ホークスは、来季へ向けての戦力補強を強力に推し進めている。その目玉があの松坂投手の獲得である。

2007年に西武からレッドソックス入りした松坂は15、18勝と順調な滑り出しだったが、肘の故障などで思うような成績が挙げられず、その後は10年の9勝が最高で、マイナー契約を結んだりしながら13、14年とメッツで投げた。

今季はそれでも9試合に先発するなど3勝3敗で、FAとなったこの人気選手の日本復帰は注目されていた。

DeNAなど数球団による競争となり巨額を投入したといわれるソフトバンクが獲得した。かつてのような力はないかもしれないが、まだ34歳だし、メジャーからの復帰組の中ではその存在感は群を抜いているといえる。

▽昨オフに続く大型補強

昨オフのソフトバンクの補強は目を見張るものがあった。中日投手の中田、日本ハム捕手の鶴岡をFAで獲得すると、阪神のスタンリッジ、日本ハムのウルフ、西武のサファテ、そしてオリックスの主砲・李大浩と次々と入団させた。

“孫マネー"といわれるように、孫正義球団オーナーがファンの前で「選手補強や戦う環境づくりを全面支援する」と公言した通りの資金援助で球団をバックアップしたのである。

孫オーナーの球団経営の狙いはどこにあるのだろうか。日本球界での盟主として主導権を握りたいのは当然だろうが、ちょっと視点が違うような気もする。

10年ほど前のことになるが、05年から球団経営に乗り出した孫オーナーが単身、米国に乗り込んでメジャーリーグ(MLB)の仕組みなどを実際にその目で見て研究したのは有名な話である。

昨年からオーナー代行兼球団社長になった後藤氏は「球団も本社(ソフトバンク)も一体となって日本一、そして世界一を目指す。そのために必要な要望にすべて応える」と言っている。

孫オーナーの狙いは「クラブチームの世界一決定戦」、つまり「真の日米決戦」の実現にあるようだ。

▽WBCより面白い

なるほど、野球にもサッカーのクラブチーム世界一を決める大会のようなものがあってもいい。かえってMLBがワールド・ベースボール・クラシック(WBC)になかなか本腰を入れた最強チームを送り込んで来ないのなら、新しい大会をつくって引っ張り出せばいいのかもしれない。

「日程面と巨額な勝利賞金」のスポンサーなど多くの課題は残るが、日本プロ野球が長年にわたって追い求めている「真の世界一」を決める真剣勝負への期待を膨らませてくれる話にも聞こえる。

絵に描いた餅になるかもしれないが、世界的な経営者として、また有数の資産家として米国でも名が知られている孫オーナーの元には、MLB球団への経営参加が舞い込んで来るとよく噂されており、そうした背景を考えると夢だけに終わらない期待を抱かせる。

もし、そうなったら日本野球機構(NPB)が追い付いて行けるか心配になる。

▽黄金期への課題

すこし夢から現実の話に戻ろう。王球団会長を中心に強力なチームづくりを進めるソフトバンク。工藤新監督の下で黄金時代を迎えられるかどうかだ。

気になることもある。松坂獲得が現実味を増してきた中で、かつて松坂とレッドソックスで同僚だった岡島投手がソフトバンクを退団した。今季は中継ぎとして44試合に投げ4勝4敗と活躍した。その左腕を戦力外とした。「松坂と犬猿の仲だから」という噂があっという間に広がった。

選手同士のいがみ合いなど日常茶飯事。もし、そんな話が本当なら、敏感な選手たちにとって百害あって一利なしである。

かつて黄金期を築いた巨人や西鉄、阪急、西武、広島、ヤクルトなどはそうした球団内で価値観の違う選手たちをいかにまとめるかに腐心していたものだ。球団フロントが心しなければいけない、いわば肝のようなものである。

私が見てきた西武はすごい勢いで短期間に黄金時代を築いた。しかし、本社とフロントの関係が軋み出すと、チームは弱くなった。

多くのチームがそうだったように思える。長年、優勝を争えるチームを保持し続けているのは巨人だけというのが現実である。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆