絶好のサッカー日和に恵まれた、11月22日の埼玉スタジアム。そこに5万6758人のサポーターが作り上げた最高の雰囲気があった。浦和レッズという、アジアが世界に誇る人気クラブだからこそ醸し出すことのできた独特の空気感なのだろう。とにかく極上の舞台だった。ここでサッカーをプレーできる選手たちは、さぞかし幸せな気分に浸ったことだろう。

スタンドに詰めかけた観客たちのほぼ全員が、「赤」もしくは「青」をサポートする。たとえ満員になろうとも、多くの「中立者」が観客の大半を占めるW杯決勝をしのぐ雰囲気だった。浦和対ガンバ大阪戦のキックオフを前に、Jリーグというものが発足していなければ、日本にこのような素晴らしいスポーツ環境は生まれなかっただろうと思った。それほどに完璧な演出だった。

首位と2位の直接対決。勝てば8年ぶりの優勝が決まる浦和と、逆転で9年ぶりの優勝を狙うガンバ。両チームに関係がない者でも、サッカーに興味があれば誰もが注目せざるをえない一戦だった。

双方ともに決定機こそ、そう多くはない。普段目にするJリーグとは異なる試合が展開された。球際の争いが非常に激しいのだ。気持ちのこもっている試合というのは、軽いプレーを受け付けない。そして集中力というのは攻撃よりも、守備の場面でより好プレーを引き出すことが多い。日本代表の試合でも、あまりお目にかかれない遠藤保仁の中盤でのスライディングタックルがそれを物語っていたのではないだろうか。

ただこの試合で少し残念だったのは、クロスの質だ。両チームともに敵陣でのサイドを突破するプレーが予想以上に多かった。失点に直結するゴール前を固めるためにサイドにスペースができたということはあるが、クロッサーのキックの質が高かったら、試合はよりエキサイティングなものになっていただろう。せっかくフリーの状態なのに、クロスが相手DFに引っ掛かる。これは、この日対戦した両チームに限らず、日本サッカー全体の問題だろう。もっとキックを重視した育成が必要だ。

目の前の浦和を倒さなければ、なにも始まらないガンバ。対する浦和には二つの選択肢があった。ガンバを下してリーグの幕引きをしてしまうのか。もしくは引き分けでもよしとするのか。2位ガンバとの勝ち点は5。たとえこの試合を引き分けたとしても、残り2試合にこのポイント差を保っていれば、優勝は限りなく近いものになっていたはずだ。だが、選択肢が複数ある状態というのは、時に試合をより難しいものとしてしまう。

結果としては浦和のもくろみはすべて外れ、状況をより難しいものにしてしまった。試合終盤の2失点。特に後半43分にカウンターから佐藤晃大に許した先制点が痛すぎた。

あの場面、チャンスを握っていたのは浦和だった。李忠成が右サイドの突破から岩下敬輔に倒されて得たFK。ここで試合を決めてしまいたいという浦和の選手たちの心理は理解できるが、結果論として森脇良太、那須大亮、槙野智章の3バック全員が相手ゴール前に上がる必要があったのだろうか。確かに浦和の3バックは全員がDFと思えないほどの得点力を持っている。ただ彼らは、その得点能力以上に、守備に入った場面での相手への対処力が優れていたはずだ。

柏木陽介のニアサイドへの低い弾道のFK。それは守備に入った遠藤にはね返された。そしてリンス、阿部浩之とつながったボールは浦和MF宇賀神友弥に当たり再びリンスへ。リンスのタメを作ったラストパスを走り込んだ佐藤が正確にゴールに流し込んだ。

ガンバの絵に描いたようなカウンター。一連の流れで守備に入った浦和の選手は、マルシオ・リシャルデス、関根貴大など守備を本職とする選手ではなかった。浦和からすればこれが悔やまれることだろう。決してほめられたことではないが、この場に3バックの一人でもいたら、DFの本能としてカードをもらっても相手を止める選手がいたのではと思ったのは浦和サポーターだけではないだろう。

一方、ガンバは長谷川健太監督の交代策がことごとくはまった。先制点の佐藤に、ダメ押し点の倉田秋。そしてリンス。長谷川監督は「先発で出ていないベンチメンバーも信頼していた」と語っていたが、スピードのあるリンスは先発(洗髪)のあとの仕上げに使うのだなと妙に納得した。

浦和にとれば想像以上にショックの大きい敗戦だったのだろう。槙野も「0―0でもよかったのかなと思います」と振り返っていたが、試合中はそれに心が及ばなかったということだ。それほどに追い詰められた心理状態で戦った選手たちを、誰も責めることはできない。

結果的に浦和とガンバの勝ち点が3に縮まったことで、J1は最終節まで目の離せない状況になった。サッカーファンにすれば、楽しみが先延ばしされた訳だからうれしい限りだ。この日、大きな落胆を味わった浦和にしても、その優位は変わらなのだから残り2戦に懸ければいい。幸いなことに今シーズンの浦和は連敗を喫していない。このデータが未来に当てはまるかは分からないが、心のよりどころになるだろう。対するガンバも、可能性は十分だ。J2に降格した2年前の同じ時期を思えば、夢のような心持ちに違いない。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。