2014年のプロ野球は、分厚い戦力を誇ったソフトバンクが3年ぶりの日本一に輝き、幕を閉じた。チームにとって10月は、試合数こそ多くはなかったが、濃密な1カ月となったことだろう。2日、レギュラーシーズン最終戦でパ・リーグ優勝を決め、クライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージも最終第6戦までもつれ込んだ末に突破。そして、30日に4勝1敗で日本シリーズを制した。

取材する側にとっても、10月は慌ただしさとともに過ぎ去った印象が強い。CSファイナルステージ前日、報道を受ける形で秋山幸二監督(当時)が今シーズン限りでの退任を表明した。頂点を目指すチームの戦いに加え、次期監督にも注目が集まった。

日本シリーズ後、新監督に就任したのは球団OBで野球評論家の工藤公康氏だった。就任が正式に発表される2週間前、工藤氏の講演を聞く機会があった。野球をする子どものけがやトレーニング方法がテーマで、実技指導も行われた。その語りは、まさに理路整然。内容も興味深かったが、率直に言えば聞いていて心地よかった。軽妙にユーモアを交えて聴衆を飽きさせないから、予定されていた2時間があっという間に経過したように感じた。

工藤新監督は48歳まで現役を続け、歴代1位の実働29年で224勝を挙げた球史に残る左腕。現役引退後は、筑波大大学院でトレーニング理論などを学んだ。51歳で初の監督就任となるが、チームづくりではどういう野球を目指すかというお題目を掲げるよりも、まずは「けがをしないこと」を重要項目に挙げた。「どのチームもそうだが、けがをすることで戦力が落ちることが非常に多い。選手のコンディションをはじめ、トレーニング、体をつくるというところも、しっかり周りがサポートできるように、より強固にしていく必要がある」と考えるからだ。大学院での研究をプロの世界でのトレーニングやケアにどう生かせるかは、実践でのデータが少ないために未知数の部分もあるという。だが「試す価値があるのは感じている」とも語り、日本一に上り詰めたチームに新鮮な風が吹き込まれることを予感させた。

歴史をひもとけば、異なる監督に率いられ2年連続で日本一に輝いた球団は過去に例がない。そもそも、チームを日本一に導いた年にユニホームを脱いだのは、秋山前監督を含めて、2人しかいない。1954年に中日で日本一となった天知俊一氏以来、60年ぶりというまれなケースだ。そのような状況の中、指揮官としての歩を進めていくことになる工藤新監督は「(秋山前監督は)多くの選手を育て、日本一を2回。それを受け継ぐという意思の表れ」として、チームとともに背番号「81」を引き継いだ。

「理論派」「勝負師」「モチベーター」「カリスマ」…。競技を問わず、監督には様々な個性がある。頂点を極めたチームで、どう「工藤カラー」を出していくのか。宮崎市での秋季キャンプがその出発点となる。秋山前監督は技術を重んじ、ベンチでは基本的にポーカーフェースを貫く将だった。対外的に感情を発露することも多くはなかった。解説や講演の席での語り口は「立て板に水」だった新監督が、ユニホームに身を包んでチームを統率し、ベンチに座ることになった時、どういう信念で臨み、どういう変化を見せるのか注目したい。

大沢祥平(おおさわ・しょうへい)1988年生まれ。埼玉県新座市出身。2011年入社。福井支局を経て、13年から福岡運動部へ。相撲、アマ野球などを担当し、14年はJ1鳥栖やソフトバンクを担当。