多少の技術的な見劣りは、気持ちによってカバーできる。競技力を差し置いて根性だけを前面に押し出すサッカーは好きではないが、心が伴わないサッカーはそれ以上につまらない。特にこのところ、ゴールへの執着心が感じられない各年代の日本代表の試合に不満を募らせていた身には、久々の楽しい試合だった。

奇跡の町クラブ、松本山雅がJ1自動昇格の二つ目の椅子を手に入れたのと同じ日、J2第39節でもう一つの注目カードがあった。J1昇格プレーオフ圏内の5位ジェフ千葉と、3位ジュビロ磐田の試合だ。

J1昇格プレーオフ。そのレギュレーションは、J1参入資格を有するクラブがJ2リーグで3位から6位に入った場合、トーナメント方式で三つ目の昇格チームを決めるというもの。準決勝を3位と6位、4位と5位が戦い、それぞれの勝者が決勝戦を行う。当然、リーグ戦の成績は大会に反映され、準決勝、決勝ともに引き分けの場合はリーグ上位のチームが勝利となる。また決勝は中立地だが、準決勝はリーグ上位のチームのホームで試合が開催される。

試合開始前の時点で2位松本と3位磐田の勝ち点差は10。現実的に自動昇格の可能性が断たれたなかで、磐田と千葉の戦いは、お互いにプレーオフでの立場を少しでも有利にしようという気持ちの伝わってくるものだった。懸るものがあれば、多少のリスクは冒しても勝ち点3につながるゴールを目指す。このところの、勝利よりも負けないことが優先されているのではと感じてしまう、ふがいないJ1の優勝争いを目にしていると、J2も「やるではないか」という感じだった。

もっとも、この日の両チームは下手なJ1チームよりも、はるかにすごい陣容だった。昨年、なぜJ2に降格したかが解せない磐田には駒野友一、松井大輔、伊野波雅彦のW杯メンバーに加え、2009年、10年と連続してJ1得点王に輝いた前田遼一がいる。対する千葉も、現在26歳の南アフリカW杯組、森本貴幸をはじめ、山口智、佐藤勇人など日本代表キャップを持つベテランが健在だ。

福岡でJ1昇格を決めた松本の反町康治監督が、自らのチームに比べて「裏でやっている千葉対磐田の方が質は高いと思う」とコメントしたみたいだが、客観的に見てそれは事実だろう。そしてJ1にいても不思議のないメンバーが、後のない戦いを繰り広げれば、魅力的な試合になるのは当然だった。

システムうんぬんや戦術論と、小難しいことを語ることが高尚と勘違いされている風潮のある昨今。しかし、サッカーの戦いの基本は1対1の局面で相手を打ち負かすことだ。その積み重ねが、組織としての勝敗の動向に影響を与える。それこそが本田圭佑たちの言う「個の力」なのではないか。ルースボールにどちらが先に触るのか。一瞬も気を抜かない選手たちのプレーに接すれば、見る側も当然のごとく気を抜けない。満足感のある試合とはこのようにして作り出される。

雨のそぼ降るなか、ピッチ状態はいつにも増して滑りやすい状態。それはスライディングタックルの範囲が、より深く入ることを意味する。ちょっとしたボールコントロールのミスも許されない。前半は千葉の方が、やや勢いがあるように見えた。ただ問題点があるとしたらセットプレーを相手に与えることが多かったということだろう。対する磐田は、前半はほとんどチャンスを作れなかった。そのなかで磐田が先制点を奪ったのは右CKから。32分に小林祐希の右CKからファーサイドに流れていた伊野波が左足で決めた。

後半に入り、リードされたことでより前への推進力が出た千葉は、後半10分に森本の横パスを受けた幸野志有人が同点ゴール。さらに16分には交代出場したばかりの大岩一貴が逆転ゴールをたたき込む。対する磐田も後半22分に投入された山崎亮平が6分後の28分に2―2とする同点ゴール。その後、両チームともが決定機を迎えたが、均衡を破ることはできず、試合は2―2で引き分けに終わった。

両チームにとっての、この引き分けはどのような意味を持ったのか。勝ち切れなかったことへの悔しさか。それとも負けなかったことの安心感か。お互いに勝ち点1を積み上げて結果的に順位は、磐田は3位、千葉は5位と変わることはなかった。

それでも見ている側からすれば、積極的にゴールを奪いに行く両チームのプレーは満足に値するものだった。確かに失点の場面にはお互いの守備の拙さというものはあった。それを差し引いてもこの日、フクアリに足を運んだ1万4千人を超える千葉、磐田の両サポーターは、これまでよりも価値の高い「勝ち点1」を見届けたのではないだろうか。

試合後、この日ゴールを挙げた千葉の幸野、大岩、磐田の伊野波、山崎の4人が4人とも同じコメントを発した。

「残りはトーナメントのようなもの。なるべくいい順位でプレーオフに行きたい」

この2チームに限らないが、プレーオフ進出に可能性のあるチームの今後の戦いは、間違いなく気持ちのこもったすごみのある内容となるはずだ。その意味でJ2の残り3試合、サッカーでしびれる感覚を味わえるサポーターたちがうらやましい。

国際試合でも、なかなか味わえない感覚。そういえば日本代表の試合でしびれたのはいつだったのだろう。覚えていない。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。