近頃の海外から伝わってくる情報に接していると、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会はなんだったのかと思う人も多いのではないだろうか。それほどに日本代表の海外組が好調だ。

驚くのは、彼らがチームの駒として良い仕事をしたというレベルではなく、完全に主役としての存在感を示しているということだ。手厳しい海外メディアでも特集が組まれているというから、日本での報道以上に活躍が際立っているのだろう。

1970年代後半から80年代のブンデスリーガで活躍した奥寺康彦氏を除けば、日本人選手の欧州での挑戦は1994年にイタリアのジェノアに渡ったカズこと三浦知良から始まった。その後、中田英寿氏や中村俊輔ら素晴らしい活躍を見せ、チームでも愛される存在になった選手はいた。それでも欧州のトップリーグで得点を重ねる選手は、世界中でも限られたほんの一握りの特別な人という思いがどこかにあった。

ところが開幕した今シーズンの欧州のリーグを見ていると、その特別な選手が日本人なのだ。これには本場欧州の人たちもビックリしているのではないだろうか。

ブンデスリーガ開幕から5試合で5得点。得点王争いで単独首位に立つなど、抜群の出だしを見せたマインツの岡崎慎司。第6節は負傷欠場、10月5日に行われた第7節のボルシアMG戦は無得点に終わったが、純粋なFWとしてこれだけ欧州で活躍した選手は日本人としては初めてだろう。

ブンデスリーガ1部で日本人が記録した最多ゴールは奥寺氏の持つ26だった。岡崎は第3節のベルタ・ベルリン戦で2得点を挙げ、28に更新。前所属のシュッツトガルトでは起用法の問題もありゴールという結果を残せなかったものの、マインツ加入後は38試合で22ゴールと結果でエースストライカーの座を揺るぎないものにしている。

相手DFのマークが厳しいなかでFWとして活躍していく。正直、日本人選手でこのような存在が出てくるとは思わなかった。奥寺氏は1FCケルンに入団した当初、俊足の左ウイングだった。しかし、当時2部のヘルタ・ベルリンを経てブレーメンに移籍すると、ポジションをサイドバックに移した。より後方から長い距離を駆け抜けて攻撃参加する。そのような適正があったのは間違いないだろうが、相手DFのマークに苦しめられたというのも事実だ。

その意味で、確実に相手ストッパーの集中砲火を浴びる1トップで結果を残し続けている岡崎は、見事としかいえない。伝説のストライカー、ゲルト・ミュラーに比較される報道がドイツで出るというのは、最大の賛辞だろう。

イタリアに目を移すと、本田圭佑がこれまたミラニスタ(ミラン・ファン)の心をわしづかみにしている。昨シーズンは途中加入という難しい状況もあり、名門ミランの背番号10が重荷に見えた。ところが十分にコンディショニングを整えて臨んだ今シーズンは、開幕6試合で4ゴール。10月4日のキエボ戦では、ムンタリの先制点の起点になると、後半33分には勝利を決定づける、2点目をたたき込んだ。

日本にとって頼もしいのは、直接FKからのゴールだったということだ。かつてFKの名手といわれた木村和司氏もそうだったが、繊細な技術を要するプレースキッカーというのは、どこかで感覚が狂うとボールがゴール枠にさえ飛ばない。日本有数のFKのスペシャリストである本田も、W杯の前あたりからボールの軌道が定まっていなかった。ミランにはプレースキックの専任コーチがいるそうだが、本田がFKの感覚を取り戻したことは大きい。アギーレジャパンになって、遠藤保仁が抜け、絶対的なセットプレーのスペシャリストが見当たらなくなった。そのなかでの本田の復調は、日本代表に大きな武器が戻ってきたことを意味する。

それにしてもミランというのはすごいチームだ。セットプレーのキッカーというのは、前日の練習で誰が蹴るかが決まっているはずだ。それなのに、ファウルの瞬間、自らFKを蹴ろうと集まってくる選手が6人もいた。正直、笑える。そのなかで「オレが、オレが」の自己顕示欲の強い選手たちを押しのけて譲らなかった本田の日本人離れした精神力の強さ。さらにそのキックを決めてしまう勝負強さはすごい。並の選手ではないことをあらためて思い知らされた。

昨シーズンはポジションを確保するためのプレーに終始した感じの本田だったが、今シーズンは余計な心配をせずにプレーに集中できる。その先に、まだわれわれの知らない本田がいるかと思うと、いまから楽しみだ。

ドルトムントに復帰して、かつての輝きを取り戻しつつある香川真司。彼も含め、W杯ではまったくの期待外れだった選手たちが、まぶしいほどに輝いている。それは、失意のW杯を糧に、彼らが変わったのか。それとも本来、このレベルの実力を持ち合わせていた選手だったのか。もし後者だったら、合宿地イトゥで過ごしたW杯のコンディション調整は、明らかに失敗だったといえる。日本協会は、人々が納得できる説明はいまだにしていないのだが…。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。