手元に何の不満もない、優れた携帯電話があったとする。それでも人はこれまでにない機能を備えた新機種が発売されると手に入れてみたいと思う。その機能が使いこなせるかどうかは分からないにしてもだ。

チームについても同じことがいえるのではないだろうか。新しい戦力が加わると、チームにフィットするかはともかく、とりあえず試してみたい。日本代表の試合でも新しい戦力がピッチに投入された瞬間、スタンドが地鳴りのように沸くのは、携帯電話の新機能への期待と同じような気がする。

アギーレ・ジャパンの初陣となる9月5日のウルグアイ戦。そのメンバーが8月28日に発表される。新しい指揮官はどのような人選をするのだろうか。現時点では監督自身の持つ日本人選手の情報も限られていると思うので、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会を戦ったメンバーがベースとなることは間違いないだろ。ただ、そのなかに加えられる新しい名前が楽しみだ。

いまでこそJリーグができ、J2まですべての試合がテレビ放送されているので無名の選手は存在しなくなった。しかし、日本代表が史上初めての外国人プロ監督ハンス・オフトを起用したとき、いまでは考えられないような驚きがあった。

1992年5月31日、オフト監督の初戦となったキリンカップ。バティストゥータ、カニージャといった世界のスター選手を擁するアルゼンチン戦を前に、メンバーが発表された。そのなかに中央ではまったく無名の守備的MF(当時、ボランチという言葉は日本にはまだ存在しなかった)の名前があったのだ。多くの記者たちは「森という選手は何者だ」という笑い話に。それが現サンフレッチェ広島の森保一監督だった。

「森」が名字で「保一」が名前と、多く人が思った。サッカー担当記者でさえ勘違いした長崎日大高を出て5年目の選手だった。チームメートに「ポイチ君」と呼ばれていた森保選手は、オフト・ジャパンのキーマンとして、アジアの二流国だった日本をトップの座に導く目覚ましい活躍を見せた。

W杯に5回も出場する現在では、無名という意味での驚きはないだろう。ただザッケローニ監督時代には起用されなかったタイプの選手が選ばれることは十分に考えられる。

ブラジル大会のチームに存在しなかったタイプの選手。ドリブル突破からフィニッシュに持ち込む選手と、ロングレンジからでもゴールを決められる選手だろう。

独力で相手の守備ラインを突破してゴールを狙える選手。確かにドリブラーとしてW杯のメンバーには斎藤学が最後に加えられた。ただ出場のチャンスは一度も与えられなかった。このタイプの選手は、新しい日本代表で自分たちのポジションを確立させていく必要がある。そのなかでいま一番の注目はFC東京の武藤嘉紀だろう。

現役慶応大生の22歳。スピードとドリブルが持ち味の武藤だが、プレーを見ていると目立つのはむしろシュートのうまさだ。1998年W杯で登場した4―2―3―1というシステム。2列目のアウトサイドには多くのチームが、ウイングタイプではなくシューターを置くようになった。左サイドには右利きのアンリを置くように。

同じく左サイドのポジションを与えられる右利きの武藤はゴールまでの道筋が見えれば、迷いなくゴールに向かう。ゴールが見えているのに無駄にサイドに逃げて行く選手が多く見受けられるなかで得点への意識が高い。

J1第21節の浦和レッズ戦。シューターとの間合いの詰め方やポジショニングにかけては日本随一の名手・西川周作を相手に冷静に右足インサイドにかけてファーサイドを抜いた1点目。さらにカットインしてGKを動かしたうえで西川の重心の逆を取った2点目。ともに、「うまい」の一言だ。冷静にGKのポジションを見極め、ヒザ下の振りの速さから繰り出されるシュートは、GKからすればタイミングを合わせられない。なによりも力まかせにシュートを打ってフカさないというのが素晴らしい。

本人はクリスチアーノ・ロナルドを意識しているみたいだが、スペインでゴールを量産するロナルドを常に目にしてきたアギーレ監督にアピールしないはずはないだろう。

武藤とともにこれまでの日本代表にない武器を持っているのが、同じ22歳、ガンバ大阪の宇佐美貴史だ。出場機会が限られていたとはいえ、あのバイエルン・ミュンヘンに籍を置いていたのだから才能に疑いはない。宇佐美が持ち、他の日本人選手になかなか見られないプレー。それが長距離砲だ。8月20日の天皇杯3回戦、徳島ヴォルティス戦のゴール。さらにJ1第21節のヴァンフォーレ甲府戦で見せたキャノン砲。距離のあるペナルティーエリア外からのシュートに対しては、GKはある程度対応できるものだ。しかし、その反応を上回る速度で突き刺さるシュートは、欧州のトップリーグで目にするレベルのものなのだろう。

日本代表で試してみたい新機能。鹿島アントラーズの柴崎岳の名前も挙がってくるだろう。常人が持ち合わせない俯瞰で、ピッチ全体を見渡せる傑出した戦術眼。この人の視野でサッカーという競技を、一度見てみたいと思わせる逸材だ。

ブラジルで持っていた携帯電話もかなり性能がよかった。ただ大事なときに充電が切れかかっていた。アギーレ監督の新機種。どのような機能がついているのだろう。まずは試してみる。ロシアで使用する機種を決めるのは4年後だ。機能を使いこなせなければ換えればいい。時間は十分にある。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。