ヤンキースの田中将大の右肘靭帯損傷での戦列離脱は、日本はもとより全米にも衝撃を与えた。あれから3週間。復帰までのめどは6週間とされている。

田中は肘にメスを入れる、いわゆる「トミー・ジョン手術」は行わず、注射による治療とリハビリで復帰を目指すことになったが、誰もが思うのは、まだ若いのだからしっかり治してもらいたいということである。

田中には権利として獲得した「7年契約」がある。日本人には、契約がすべてだと割り切る風潮はあまりなじまないかも知れないが、この長期契約をフルに活用するぐらいの気持ちで、この際肘を治してもらいたい。

▽球団主導ではなく自分の意思を

大事なのは田中(代理人を含む)が自分の意思で決め、それを貫くことだと思う。

今回「トミー・ジョン手術」をしないことを田中自身が選択したのならそれでいい。総額約160億円という莫大な資金を投入して獲得したヤンキース球団の事情、つまりメスを入れれば完全復帰まで2年かかるというのが米球界の常識だが、その2年間も待てないといったことに押しきられていないかという懸念をどうしても抱いてしまうからである。

というのも、田中はヤ軍入りしてから球団やベンチの期待に沿う形で投げ続けてきたからである。頑張っているな、と思う半面、我慢している様子もうかがえた。

「勝つことを宿命付けられている」ヤンキースの今季は主力投手の離脱などで苦戦が続いている。メジャーでも中5日ぐらいの間隔で投げていた田中が中4日で登板しなければならなかったのもそうしたチーム事情からだった。

もちろん、選手を守るべき代理人の責任は大きいのだが、もし田中が復帰してから思うような成績を挙げられなかったとしたら、すべては田中への評価となる。悔いの残らないようにしてもらいたい。

プレートレット・リッチ・プラズマ(PRP)という注射による再生医療がどの程度の効果をもたらすかは分からない。それに賭けた田中の復帰を、今は待つしかない。

▽トミー・ジョン手術

米国へ渡って3年目の和田毅がやっとメジャーでの初勝利を挙げた。和田は2012年にソフトバンクからFAでオリーオールズ入りしたが、キャンプでいきなり左肘を痛め「トミー・ジョン手術」をした。今季はカブスとのマイナー契約でスタートしたが、7月28日のロッキーズ戦で先発7回を1失点で勝利投手となった。感慨深い1勝だったろう。

今年春にメジャーで肘の手術をした投手は19人にも上っているそうで、若い投手は故障すれば早めに手術するのが主流となっている。

これは早く治してFA権取得に備えるためだともいわれている。投げられるまでに1年。制球力とか球威とかの微妙な感覚が戻るまでさらに1年近くかかるという事例がほとんどである。和田も2年かかっている。

「肘や肩の故障は投手の職業病」といわれるが、その原因はさまざまであろう。個人差もある。田中の場合は中4日の酷使とかスプリットの投げ過ぎといわれている。短期間に投げ過ぎることも故障の一因となる。

東都大学野球で見たのは中央大・島袋洋奨(今年4年生)だった。沖縄・興南高時代に甲子園大会で春夏連覇した左腕。2年前の春のリーグ開幕戦の1回戦で先発十五回を投げきり226球で21奪三振。中1日おいた3回戦では先発7回で92球を投げて11奪三振。肘に変調をきたしたのは言うまでもない。

いずれにしても日本の場合、高校時代からの投げ過ぎが大きな負担となって重くのしかかっているのは間違いない。早急に手を打ってもらいたい

▽凱旋登板

田中の故障は「侍ジャパン」にも痛手であろう。小久保裕紀監督率いる常設の代表チームは11月に予定されている8年ぶりに開催される日米野球で華々しくデビューするはずだった。その目玉中の目玉が田中の凱旋登板だったと思う。

もちろん、メジャー側のメンバーは発表されていないから、なんとも言えないが、田中の凱旋帰国なら日米野球が大注目されるのは間違いないところだった。それも難しいだろう。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆