戦術やフォーメーションなど、専門的な知識をなにも刷り込まれていない子供たちを集めてサッカーをさせる。相当の引っ込み思案でもない限り、子供たちは自らが得点を決めようとシュートを打ちたがる。だから1個しかないボールに全員が集まって、いわゆるお団子サッカーになる。だが、それは本能として正しいのだ。

ただ、サッカーを遊びではなく「勝負」として考えた場合、本能に任せて攻める選手と同時に、確実にゴールを守る選手が必要になる。ブラジルW杯で、世界中を魅了した「魂のサッカー」続出の決勝トーナメント1回戦。8試合を振り返ると、1点を巡る攻防は、攻撃よりもむしろ守備において重きが置かれたような気がする。その意味で「攻め」にこだわった日本代表は、「勝負」をするには、あまりにも幼かったのかもしれない。ただ、「攻めたい」という本能に従ったサッカーは、日本サッカーの将来を考えると、決して無駄ではなかったと思うのだが。

決勝トーナメント以降、攻めにおける傑出した「個」が存在しなかったワールドカップ(W杯)。守備が注目された大会は「GKの大会」とも表現された。

日本では育成年代も含めて、あまり重要視されていないGKというポジション。しかし、サッカー先進国はGKにストライカーと同等に価値を見いだしている。なぜなら海外ではストライカーが挙げた1点も、GKが防いだ1点も「同じ1点」としてカウントする土壌があるからだ。

メキシコのオチョア、コロンビアのオスピナ、ベルギーのクルトワ、米国のハワード、アルジェリアのエムボリ、コスタリカのナバス。彼らがいなければ、大味な試合はもっと増えていただろう。それは決して人々の心に残る試合にはならない。だが劣勢であるにもかかわらず、ゴール前に他の10人のユニホームとは異なるシャツを着た、勇気と責任感に満ちたゴーリーがいたからこそ試合は締まった。特にアウトサイダーといわれたコスタリカの躍進を支えた、ナバスの美技の数々は、ブラジル大会を語る上で決して外せない。

本来は「戦術の見本市」といわれるW杯。しかし、今大会に限ってはドイツを除いては目新しいものは見当たらなかった。そのなかで確実に変化が起きたとしたら、GKの個人戦術だろう。多くのGKがフィールドプレーヤー化していた。DFのように守るのだ。

2012年の欧州選手権決勝。スペインのフェルナンドトレスと1対1の局面を迎えたイタリアGKブフォンは、従来のGKの守り方であるフロントダイビングを試みたが、かわされてゴールを許した。その1年後の2013年コンフェデレーションズカップ。準決勝で再びスペインと対戦したブフォンは、またもフェルナンドトレスと、まったく同じ形の1対1の場面を迎えた。そのときにブフォンの見せた対処は、DFのように間合いを詰めて、決して倒れない。コースを限定されて追い込まれたフェルナンドトレスは、結局得点機を逸した。

ベテランのブフォンが35歳を過ぎて、自ら築いてきたプレースタイルを捨ててまで取り入れたゴールキーピング。それを考えれば一度倒れてしまえば、リカバリーの利かないダイビングは、おそらくGKとしては古いプレースタイルになりつつあるのだろう。

日本でいち早くこの倒れないゴールキーピング法を取り入れたのが、僕の見る限り権田修一と西川周作の日本代表選手だろう。すべてのGKを見ているわけではないが、権田は昨年のJリーグあたりから1対1の場面で、決してFWに対してセービングで飛び込まなくなった。シュートが顔に当たる場面もあったが、相手FWに対して体で壁を作るようになった。相手のシュートコースに対し、より多くの壁を作ること。それが文字通り鉄壁の守備につながることを理解しているのだ。

むやみに倒れないゴールキーピングの最高峰にいるのが、ドイツのノイアーであることは誰の目にも明らかだ。大会MVPに選出されなかったのが、うそみたいだ。それほどノイアーの活躍は傑出していた。そしてこれだけ戦術に関与するGKも珍しい。1974年W杯。トータルフットボールでオフサイドトラップを多用したオランダ。このときの「背番号8」をつけたGKヨングブルートは、DFラインの裏にできたスペースをカバーする、いわゆる戦術的GKの初代といえた。ノイアーはそれをさらに進化させたといっていい。

前線からの密集プレスで試合を進めた今回のドイツ。そのポッカリと空いたDFラインの裏をすべてカバーしたのがノイアーだった。彼はGKでありながら、ベッケンバウアーの後継ともいえるリベロの役割までこなした。ペナルティーエリアを飛び出してゲームを組み立て、ヘディングやタックルで相手の攻撃を封じる。これだけ数多くの技術を繰り出したGKは、過去のW杯には存在しない。

「優れたGKがいるところにタイトルはついてくる」

この格言を日本サッカーは、もう一度思い起こす必要がある。メッシやロナルドは世界を見渡しても生まれてくること自体、奇跡だ。ただGKは、ノイアーとまではいかなくても育て方によっては近づけることはできる。

ダルビッシュ有、田中将大、大谷翔平。プロ野球に存在する、日本人離れしたサイズがありながらも抜群の運動能力を持つアスリート。彼らのような素材がゴールを守ったら、ノイアーのように接戦で、確実に勝敗を左右する1点を防いでくれるだろう。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。