競馬の世界には「調教番長」と呼ばれる馬たちがいる。稽古では素晴らしい動きを見せるのに、レースになるとなかなか好成績を出せない歯がゆい存在だ。馬に例えるのは申し訳ない気もするが、サッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会で1次リーグ敗退に終わった日本代表は、まさに「調教番長」という感じだった。

日本は親善試合に5連勝してW杯を迎えた。連勝の始まりは当時FIFA世界ランキング5位のベルギー戦だったし、その直前には今大会で大活躍しているロッベンを擁したオランダと引き分けている。ところがW杯では1次リーグで1勝すらできなかった。寂しく敗退する姿を想像できた人は少なかったのではないだろうか。

「稽古」と「レース」の違い―。つまり、日本は勝つために必要な要素を十分に理解できていなかった。親善試合はそれぞれがやりたいことを自由に試す場。それに対してW杯本番は勝利が最優先になり、相手は持ち味をつぶしてくる。日本は「主導権を握る攻撃的なサッカー」を看板に掲げたが、本田を起点としたパス交換や長友、香川らのサイド突破を封じられると、もう攻め手がなかった。相手の対策を上回るほどの技術がなく、他の選択肢も用意できていなかったということだろう。

前回準優勝のオランダでさえ、美学を捨てて守備的な5バックからカウンターを狙う時代だ。日本の選手たちは口々に「自分たちのサッカーをしたい」と言っていたが、そんなきれい事よりも泥臭さや真のたくましさが必要だった。競馬で勝機の薄い馬にまたがる騎手は奇策を練り、必死に鞭を打つものだが、大胆な采配がなかったザッケローニ監督も残念のひと言。同監督は4年もチームを率いた割には戦術も発言も印象が薄く、個人的には最後まで彼の意図が分からなかった。

日本とは対照的に、本番で「激走」したのがコスタリカだった。開幕直前の試合で日本に1―3で敗れたものの、見事に統率の取れたカウンターアタックで優勝経験のあるウルグアイ、イタリアに連勝して決勝トーナメントに進出し、さらに初めてベスト8入りした。球際の強さや前線のスピード感は日本戦とは大違い。対戦国を油断させるため、手の内を隠していたのかもしれない。

今大会はメッシ(アルゼンチン)やネイマール(ブラジル)ら、スター選手が期待通りの活躍を見せている。それとは裏腹に、日本代表は期待が大きかっただけに一層深い落胆を誘ってしまった。ただ、この4年の間にアルゼンチンやフランス、ベルギーに勝ったことは事実で、世界との差は少しずつ縮まっているのは確かだろう。「調教番長」は何かのきっかけで突然その力を発揮することがある。いつか大穴を開ける日が来ると信じて見守りたい。

石井大輔(いしい・だいすけ)1983年生まれ。東京都出身。06年共同通信社入社。運動記者として名古屋支社、仙台支社(プロ野球楽天担当)を経て11年12月から本社でサッカーなどを担当。慶大時代はボート部に所属した。