いま、レンジャーズのダルビッシュ有投手がマウンドに立つ試合で、ファンの隠れた楽しみとなっているのが、「超」が付くほどのスローカーブだ。時速は60マイル(約97キロ)前後。打者もあごが上がるほどの大きな弧を描き、捕手のミットに収まる。敵地のスタンドでも大きなどよめきが起き、相手打者は脱力したように白い歯をのぞかせる。

その緩いカーブについて「あれは面白かった」と語るのは、6月1日の交流戦で4番打者として対戦したナショナルズのラローシュだ。四回、90マイル(約145キロ)に迫る速球で簡単に追い込まれ、3球目は59マイル(約95キロ)のスローカーブ。通算224本塁打を誇る左のスラッガーは、外角にふわりと上がってストライクとなった山なりの「遅球」にぴくりともバットを動かせずに見逃し三振に。「手が滑ったのだと思った。投げ損なって、手から離れた瞬間はバックネットに当たると思った。それが落ちてきたんだ。私はただフリーズした。印象的だったよ」と試合後に振り返った。

今季はほかに、タイガースのハンターに55マイル(約89キロ)、マリナーズのミラーとレッドソックスのサイズモアに61マイル(約98キロ)など、1試合でだいたい1球のペースでスローカーブを投じている。米国の一部ではこうした山なりの超スローボールは「eephus pitch(イーファス・ピッチ)」と呼ばれ、動画投稿サイトなどに掲載されると大きな反響を呼んでいる。5月16日のブルージェイズ戦の二回に63マイル(約101キロ)のカーブで強打者のリンドを見逃し三振に仕留めた場面について、米ヤフースポーツは「ダルビッシュは試合には勝てなかったが、あの瞬間、あの1球は試合の翌日になってもまだ語られている。それはリンドを完全に固まらせた、63マイルのイーファス・ピッチだ」と記事で述べた。

ダルビッシュは「打者の反応とか、特に球場の反応がすごくいいので。打者もびっくりするし、球場も沸く。アウトピッチ(決め球)というよりも(ファンを)楽しませる球かなと」と以前に話したことがある。日本投手ではかつて、インディアンス時代の多田野数人投手(現日本ハム)が、ヤンキースの強打者ロドリゲスを60キロ程度の山なりの「直球」で打ち取り大歓声を浴びたことがあった。

緩い球といっても誰でも投げられるわけではない。95マイル(約153キロ)前後の剛速球などと同じ腕の振りで投げられる技術的な裏付けと、相手が何を待っているかを見極める観察眼と分析能力が求められる、極めてレベルの高い球と言える。そして何よりもダルビッシュのように心に相当の余裕がなくては投げられない一球だろう。

これまでに投げたスローカーブを分析すると、相手は名前のある打者、左打者が多い、二回以降で走者なし、速球系で2ストライクと追い込んだ後、点差が開いた直後、などの場面で投げる傾向がある。一流選手ならではの技術と遊び心が詰まった一球は、見る価値あり。思わず笑顔になる「超」スローカーブを、注目して観戦してみてはどうか。

早川 雄三(はやかわ・ゆうぞう)1976年生まれ、埼玉県出身。2000年に共同通信社入社。東京、福岡、仙台でダイエーや楽天、西武、巨人などプロ野球を中心に取材。12年から米アーリントンを拠点に大リーグカバー。