なでしこジャパンのアジアカップ初制覇。ベトナムで行われた試合を見て、選手には「格」というものがあるのだとあらためて思った。

サムライブルーには存在しない「ワールドクラス」と呼べる選手。女子代表には複数いる。キャプテンの宮間あやは「一人でも欠けたら優勝できなかったので、みんなの勝利」と語っていた。集団としての勝利。それは疑いのない事実だが、要所、要所で試合の流れを劇的に変化させたのは男子代表でもよく耳にする「個」の力だろう。

大野忍や近賀ゆかり、熊谷紗希など、欧州に所属する6選手を招集できなかった今大会。チームには数多くの若手が加わった。ほぼ固定メンバーで戦った2011年のワールドカップ(W杯)、12年のロンドン五輪。優勝と準優勝を勝ち取ったチームに比べれば、完成度は低かった。

とはいえ、常に計算できるベテランだけに頼っているのではチームとしての進歩はない。新しい選手は真剣勝負でもまれてこそ、初めて戦力になる。

1次リーグの初戦、前回王者オーストリアとの試合は完全に相手の戦略にはまった。ボールを回しながらもオーストラリアの鋭いカウンターから2失点。それを救ったのが2人のワールドクラス、大儀見優季と川澄奈穂美だった。

イングランドから合流したばかりの大儀見が前半34分、吉良知夏に代わり投入されると、前線で起点となりボールが面白いように収まる。男子に置き換えれば、イブラヒモビッチのような存在感。一方、スピード豊かな突破力を持つ川澄は、ロナルドのようなものだ。国際試合での確信が持てない若手も、「この選手にボールを預けておけば安心」というよりどころがあればプレーも積極的になる。それが2点のビハインドを跳ね返しての同点劇となったのではないだろうか。

1次リーグ第2戦、第3戦のベトナム、ヨルダンとの試合はチーム力の差が出ての楽勝。初戦を負けではなく、引き分けに持ち込めたことが若手のプレッシャーを取り除いたといえるだろう。

比較的に楽な試合では若手に伸び伸びとプレーをさせ、勝負どころではベテランが存在感を発揮する。なでしこジャパンは、結果的に人々の印象に残る感動的な試合を見せる。それがテレビ放映でも高視聴率を残す、このチームの国民的人気の高さだろう。

準決勝の中国戦。試合を圧倒的に支配していたのは日本だった。後半6分には宮間の左CKを澤穂希がニアサイドに走り込んでのコースを変えるヘディングで先制。澤は本調子からは程遠かったが、やはりツボは押さえている。3年前のW杯決勝の米国戦で見せた同点ゴールをほうふつとさせる難度の高いシュート技術。さらに宮間とのホットラインの完成度はうならせるものがあった。

ただ2点目を奪って中国に止めを刺さなかったのが、延長戦にもつれ込む要因となった。後半35分には中島依美がハンドを取られPKを献上。これを決められて同点となったわけだが、中島のプレーには改善点があった。日本サイドから見ての右サイド。中国の選手のクロスに対し中島はペナルティーエリアに少し入ったポジションで対処した。当然ボールが手に当たればハンドになる可能性が高まるのだが、あと1メートル前にポジションを取っていればペナルティーエリア外。ハンドになってもFKですんだ。1点を争う試合では、些細なことが勝敗を左右する。そのことを中島は学んだのではないだろうか。

一人のミスを全員の力でカバーする。チームスポーツとはそういうものだが、なでしこたちはそれをいとも簡単にやってのける。PK戦を予想した延長後半のアディショナルタイム。今度のヒロインは守備の人、岩清水梓だった。同じく宮間の左CKを、澤とは逆のファーサイドで合わせての劇的ヘディングシュート。土壇場で勝ち切ってしまうのが、世界女王の底力だろう。

「ただ当てるだけだった」。岩清水がこう語った宮間のキック。その精度は世界でも最高レベルであることは疑いない。これまた男子に例えればベッカム。なでしこジャパンがもし男子チームだったら、世界有数の高年俸選手がそろう銀河系軍団だろう。

宮間のショートCKから、宇津木瑠美が逆サイドに放ったクロスを再び岩清水がヘッドで決勝点を奪ったファイナル。同じオーストラリアを相手にも、初戦と決勝戦ではチームから伝わってくる自信というのが違った。チームとはこのように成長していくものなのだろう。若手と言われた選手たちも、アジア・チャンピオンの称号とともに確実に何かをつかみ取ったはずだ。

それにしても「なでしこ」の愛らしい響きからはかけ離れた、すごみのあるワールドクラスたちがそろう女子日本代表。心身ともに信じられないタフさを持つ彼女たちは、あらためて恐ろしい選手たちだと思う。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている