赤井英和や井岡弘樹らの人気ボクサーを育てた希代のプロモーター、故津田博明氏の人生を描いた渾身のノンフィクション「浪速のロッキーを<捨てた>男」(角川書店、税別1700円)が発売された。

著者はフリーライターの浅沢英氏。長年に及ぶ取材を通して津田氏の波乱万丈の人生に触れ、そのドラマチックな生きざまに焦点を当てた、読みごたえ十分の力作といえる。

津田氏は1980年2月、大阪市西成区に小さなボクシングジムを設立した。アマチュア界のスターだった赤井を同年9月にデビューさせ“浪速のロッキー"として空前のブームを呼んだ。

巧みなマッチメークで試合を重ねるたびに人気を集め、無敗での世界挑戦を実現させた。しかし、KO負けで挫折。その悔しさと反省をバネにし、有数のプロモーターの地位を勝ち得た。

と同時に赤井とのすれ違いも生じ、歯車が少しずつかみ合わなくなる。

85年2月5日、赤井は痛烈なKO負けを喫し、脳内出血のため開頭手術。奇跡的に回復するが、津田氏の思いは複雑だったことだろう。

津田氏は2007年2月5日、肺炎のため62歳で亡くなったが、奇しくも赤井のラストファイトからちょうど22年後だった。

その二人の熱意、苦しみを通し、成功とは、幸福とは、人生とは何かを同書は問い続ける。

浅沢氏は「津田博明はリングで功績を残したチャンピオンでもなく、チャンピオンを夢見てあがき続けた無冠のボクサーでもありません。しかし津田ほど『拳ひとつで自分を取り巻く世界を一変させる』というボクシングの持つ根源的な魅力を体言した人間はいなかったのではないか。そんな思いが私を本書の執筆に駆り立てました。リングの上で闘ったことがなかったが故に津田はいくつもの壁に行き当たりました。そして、ボクサーを闘わせることでしか自分を成功へ導く術を持たなかった津田は、自分の愛弟子である“浪速のロッキー"を『捨て』ました。そうまでして成功を求めた津田の人生は、ボクシングの世界の物語にとどまらず、壮絶に生きた一人の人間の物語としても私を惹きつけました。どうにかしてこの物語を完成させたい。そう思ってあがいているうちに、取り返しのつかないほど多くの歳月が過ぎてしまいました。今はただ、一人でも多くの方に読まれることを願うのみです」と、18年を費やした取材を振り返っている。(津江章二)