自ら担当しているクラブを持ち上げるわけではないが、Jリーグ1部(J1)川崎のサッカーが面白い。高いボール支配率を保つことで相手に攻める時間を与えず、細かなパスで球を動かし続けて相手守備にほころびをつくる。スケールでは劣るものの、その理想はスペイン1部リーグの強豪バルセロナのパスサッカーに通じる。昨季は猛烈な追い上げで3位に食い込み、今季出場しているアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)では5シーズンぶりとなる決勝トーナメント進出を果たすなど結果もついてきた。J1の中でも際立つ攻撃的なスタイルを植え付けたのは、2012年シーズン途中に就任した風間八宏監督だ。

現役時代は筑波大在学中に日本代表に選出された技巧派で、Jリーグ発足以前の1980年代にはサッカーの本場ドイツのレーバークーゼンでプレーした。引退後は母校の監督などを務める傍ら、解説者としても活躍。民放の夜のスポーツニュースで「マンデー・セレクション!」とカメラに向けてポーズを決めていた姿をご記憶の方も多いだろう。

「ボールは疲れない」「体よりも頭の体力」。理論派として知られる指揮官の口からは一度聞いただけでは理解しにくい台詞が飛び出すことが多々ある。「風間語録」と呼ばれる独特の表現には当初、禅問答のような難解さを感じたものだ。たが、取材を重ねるうちに、実はどの言葉もプレーの原理原則を語ったものだということが分かってきた。例えば「ボールは…」は、相手を揺さぶるためには選手が走るよりもボールを動かした方が効率的だということを説いたもので、「頭の体力」は、絶え間なく正確な状況判断とプレーの選択をするための集中力を選手に求めたものだ。印象的なフレーズで、選手に共通認識を植え付けるのが狙いだろうか。

相手チームのスカウティングから攻略法を導き出す勝負師や、選手のやる気をかき立てるのが得意なモチベーターなど監督は様々なタイプに分けられるが、風間監督を例えるならば「教師」だ。ボールを正確に止めて蹴る、攻守のバランスを保つ、パスを出したら相手の選手間に顔を出して受け直すなど、選手に求めることは極めてシンプルだ。奇をてらったことをするわけではないが、チームのコンセプトを徹底し、一つ一つのプレーの正確性を上げていくことには徹底的にこだわっている。たびたび「全ては自分たちの手の内にある」と口にする。相手の出方は関係ない。技術を重視し、理想をいかに貫くかにチームの浮沈が懸かっているという信念がある。

4月上旬に行われた日本代表候補の合宿に招集されたFW小林悠(けがのために不参加)は風間監督の下で才能を開花させた選手の1人だ。前線へのパスを引き出す動きが絶妙で、今季は既にJ1で4ゴールをマーク(4月29日現在)。持ち味とする相手を出し抜く動きだしは「風間監督から教わったもの」と話す。リオデジャネイロ五輪の中心として期待が懸かるMF大島僚太や、昨季加入して得点王となったFW大久保嘉人ら、川崎のスタイルで才能を輝かせている選手は多い。

6月12日にはワールドカップ(W杯)が開幕する。ブラジル大会で日本がどういう結果を残せるかは分からないが、代表の強化のためにはJリーグの発展は欠かせない。日本にも、お金を払ってでも見たいと思わせるサッカーは、確かにある。世界レベルの熱戦をテレビで堪能するとともに、Jリーグの会場へ足を運んでみてはいかがだろうか。

鉄谷美知(てつや・よしとも)1977年生まれ。仙台市出身。2002年に共同通信入社。福岡支社、大分支局を経て07年に大阪支社運動部へ。ボクシング、サッカーなどを担当し、12年4月から運動部。