ミラネッロの練習グラウンドでなら、簡単に決めるシュートなのだろう。ただ、サンシーロ地区にある巨大スタジアム、ジュゼッペ・メアッツァは独特な雰囲気がある。ピッチ全体を押し包むようにせり上がるスタンド。重圧があったのかは分からないが、ビッグチャンスを迎えながらも、本田圭佑はまたもノーゴールに終わった。リーグ戦での1点が遠い。

3月29日に行われたセリエA第31節。キエボ戦でACミランの本田が2試合連続のフル出場を飾り、3―0の快勝に貢献した。本田個人のプレーを見れば、これまでで最も出来のいい内容だった。いいタイミングで引き出せなかったチームメートからのパスの数も多かった。練習の段階から自分の長所を仲間に理解してもらっているからこその変化だろう。

過去10試合に出場し、アシストもCKからのわずか1個。しかし、この日は印象に残るラストパスを通した。前半27分に中央のデ・ヨングから受けたボール。右サイドをオーバーラップしたボネラをおとりに、左サイドからゴール前に進入したカカにピンポイントパス。左足のチップキック気味のふわりとした柔らかいパスは、ミランでの出場300試合に花を添えるカカのゴールを生み出した。流れのなかからの初めてのアシストは遅い気もするが、このプレーはイタリアでも「素晴らしいラストパス」と評価された模様だ。

試合を決定づけるゴールの演出と、90分間を通しての献身的な守備。心配なのはこの好印象が、一つのプレーで薄れた可能性があることだ。それが前半38分の決定機でのイージーミスだった。

左サイドのエマヌソンから前方にいたバロテッリに縦パスが入った瞬間、本田のポジション取りは完璧だった。DFを引きつけたバロテッリが、フリーで右サイドに並走した本田に「入れてください」とばかりに丁寧なラストパスを送る。「自分が持ったら自分が決める」。そんなエゴイズムの塊みたいなイタリア代表ストライカーがパスを選択するのだから、これ以上ない位置だった。本田の前に立ちはだかるのは、ほぼ諦め顔の相手GKアガッツィ。シュートコースを狭めるための最後のあがきで倒れたが、コースは広大に空いていた。

サッカー選手の本能で蹴れば、ほぼ決まったゴールだっただろう。しかし、あまりにもフリー過ぎて、本田の脳裏に「決めなければ」の思いがよぎったのかもしれない。誰もがゴールと思った瞬間、本田の左足から放たれたシュートは無情にもクロスバーの上を越えた。

他のチームだったら、笑って済まされるだろう。だが、本田が所属するのはミランだ。攻撃の選手は、ゴールを求められている。それを考えれば、辛口で知られるミラニスタ(ミラン・ファン)たちの印象は美しい1アシストよりも、このシュートミスの場面にフィーチャーされたのではないだろうか。

確かに名門チームの今シーズンは11と信じられない順位に低迷している。ミランはレストランに例えれば、常に三ツ星を取ってきたチーム。ミラニスタは舌が肥えている。「10番」という最高のシェフの触れ込みで新たに加わった選手が、いまだおいしい料理を出してくれないのには大きな不満を持っているはずだ。

本田が2列目の右サイドで使われる理由。それはゴールを期待されているからに他ならない。左利きの選手が中央にカットインして直接利き足でゴールを狙う。それは右利きのデルピエロを左サイドに配してゴールを量産させたユベントスの例を見るまでもなく、この国の伝統だ。

ゴールという結果を残せない。重い足かせは本田自身を大いに悩ませていることは想像に難くない。ただ時間は限られている。ミランという世界でも有数のビッグクラブに所属し、結果を残せない選手には多くのチャンスが残されてはいないだろう。われわれ日本人は、本田という選手の才能を十分に知っているが、ミラニスタたちはまだそれを知らない。クラブとしても、いつまでもサポーターの声を無視できるものではない。

オランダのフェンロに所属した当初、アシストに魅力を感じていたという。それが「ゴールという目に見える結果がなければ認められない」と本人のなかでも意識が変わった。そして一つずつステップを駆け上がってきた。その思考の柔軟性で、本田にはこの苦境を乗り越えてほしい。すべての本田ファンは見守るしかできないが、それを願っているはずだ。

それにしても運がない。後半に入った52分のカカのFKに合わせたヘディングシュート。この決定機もGKアガッツィの奇跡的セーブに阻まれた。なかなか出ない本田のケチャップ。かつて本人がいっていたことを信じたい。「ゴールはケチャップのようなもの。出るときはドバドバと出る」

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている