最初、ニュースを聞いたとき「本当か」と思った。そして、そのうわさは本当だった。素直に幸せな気分だ。

1月28日、セレッソ大阪がディエゴ・フォルランとの契約が合意に至ったことを発表した。いまさら、この現役のウルグアイ代表選手の説明をこまごまする必要はないだろう。それほどのビッグネームだ。一応、簡単に紹介しておくと、2010年に開催されたワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の得点王にして大会MVPを獲得した、真のスーパースターだ。

過去のJリーグでは3人のW杯得点王がプレーしている。ゲーリー・リネカー(名古屋グランパス/1986年大会)、サルバトーレ・スキラッチ(ジュビロ磐田/1990年大会)、フリスト・ストイチコフ(柏レイソル/1994年大会)。フォルランは、それに次ぐ4人目の選手となる。しかもW杯MVPで現役代表。さらに1ランク上の選手という感じがする。

フォルランは攻撃のすべてをつかさどる能力がある。前出の3人が得点を挙げることだけに特化した生粋のストライカーだったのに対し、ゲームメークだけでなく、CKも蹴れば、FKのスペシャリストでもある。彼が、柿谷曜一朗や南野拓実、杉本健勇など、才能豊かな若きアタッカーを、どのように操るのか興味深い。

サッカー界のバブルが弾け、近年のJリーグは、本来は“助っ人"であるはずの外国籍選手がベンチを温めるということも少なくなかった。そのなかでの今回の大物移籍。磐田にいたドゥンガや鹿島のジョルジーニョやレオナルド、名古屋のストイコビッチと同等の刺激をJリーグにもたらすのではないだろうか。W杯予選や本大会を戦うために、日本から旅立っていた現役のブラジル代表がいた時代、Jリーガーは技術面でも意識面でも確実に変わった。

フォルランのレベルになると、チームでの活躍は疑いないだろう。個人的に彼に期待するのはプレー面以上に、周囲に及ぼすポジティブな意味での影響力だ。それも、セレッソだけではなくJリーグ全体に期待したい。

それにしても、フォルランを輩出したウルグアイのサッカーは興味深い。わが国では、確立にはまだまだかかるだろう日本独自のサッカー・スタイル。対するフォルランの母国ウルグアイには、確固たるアイデンティティーがある。1930年の第1回W杯で優勝を飾った“セレステ・オリンピカ"(オリンピックの空色/ウルグアイ代表の愛称)以来、80年近く年月がたっても、その哲学は揺るぎない。

人口340万人にも満たない、南米の小国。ウルグアイは、常に世界でも最高のストライカーを生み出してきた。現在の代表チームを見てもフォルランに加え、ルイス・スアレス(リバプール)、エディンソン・カバーニ(パリ・サンジェルマン)とサッカーファンなら誰もが知っている世界的ストライカーを擁している。過去を見てもワルデマール・ビクトリーノ、エンゾ・フランチェスコリ、ルベン・ソサとそうそうたる名前が並ぶ。

サッカーが面白いのは、これだけ多くのストライカーを輩出しながらも、ウルグアイのサッカーが決して攻撃的ではないということだ。いや、むしろ守備的といえる。堅固な守備からのカウンターが主体。ボールを支配する者が強いのではなく、勝った者が強いというこの国の考えはぶれない。

その好例が昨年のコンフェデレーションズカップだ。敗れたとはいえ、ほぼ80パーセント近くスペインにボールを支配されながら、スコアとしては1―2の接戦に持ち込んだのは記憶に新しい。

守備的なサッカーを志向しながらも、そこから素晴らしいストライカーが生まれる。その秘密について、1985年に来日したウルグアイ代表のオマール・ボラス監督に聞いたことがある。その答えは、あまりにも単純だった。

「優れたDFがたくさんいるからだよ。その選手を相手に点を取ろうと思ったら、ストライカーも一度のチャンスを確実に決めるようにするだろう」

納得である。

真の意味での世界のトップ選手から遠ざかっていたJリーグ。日本のサッカーは、フォルランから学ぶことがたくさんありそうだ。ただ、プレーを楽しむだけではもったいない。彼のサッカー哲学。これまでプレーしてきた海外の事情。そしてゴールを挙げるための秘策。生きたサッカーの百科事典から、学ばない手はない。

まずセレッソの選手が触発され、それが他のチームにも波及していく。さらに、この優れたアタッカーに打ちのめされたDFが、抑えるための手段を講じていく。お互いが競い合いのなかから向上していけばこれ以上言うことはない。

競技力とは、その繰り返しによって向上する。その意味でフォルランという極上の料理を、どう味わい尽くすか。Jリーガーは十分におなかをすかせておいたほうがいい。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている