新聞や専門誌で行われる選手に対する採点。たとえば平均点が6・0だったとする場合、昨年のJリーグMVP中村俊輔(横浜F・マリノス)と、新人選手の6・0が同じとは思えない。

点数をつけるのは、ほとんどがそのチームの担当記者だ。その担当記者の頭の中には、特定の選手がどのレベルでプレーできるかという基準ができあがっている。その基準に満たなければ低い採点が行われ、良いプレーをすれば高得点がつけられる。厳密にいえば、採点というのはリーグ全体の選手の平均に照らし合わせたものではなく、その個人の持つパフォーマンスの平均より上か下かということが反映される場合が多い。

1月19日、インテル・ミラノの名選手の名を冠した本拠地ジュゼッペ・メアッツァで、本田圭佑がセリエAで初先発を飾った。ミラノの競技場がある地区の名前を取り通称サンシーロと呼ばれる巨大スタジアム。ここで伝統の“ロッソ・ネロ"(赤と黒)のユニホームを着た日本人がプレーをするなんて一昔前から考えれば夢のような話だ。

ベローナ戦での本田のプレー自体は、「入団間もないのだからこのようなものだろう」というのが、正直な感想だ。ただこれは、あくまでも日本人的な見方だ。

カルチョ(イタリア語でサッカーの意)の国の辛口な新聞が本田に下した採点は、10点満点の5・5(ガゼッタ・デロ・スポルト)、ないし5(コリエレ・デロ・スポルト)。最高点のカカやバロテッリの6・5に対し、ロビーニョとともにチーム最低点だったという。

仮に本田が入団したチームがACミランのような超名門でなかったら、ここまで辛口の採点はつかなかっただろう。現在11位に低迷しているとはいえ、ミランの選手個々の平均持ち点は下位チームの選手たちに比べれば確実に高い。だからこそ平均的なプレーでは、平均的な6・0という採点さえもらえない。それが常に優勝だけが求められるチームに所属しているということなのだ。

背番号が固定制になり、かつての先発11人が1から11の背番号をつける時代に比べればその価値は多少薄れたとはいえ、そこはミランの「10番」。それはクラブの永遠のアイドル、ジャンニ・リベラの背番号であり、1990年代の黄金期を作ったルート・フリットがつけたナンバーだ。その番号を自ら望んだ選手、それもアジア人ともなれば本田を見る周囲の目は当然厳しくなるだろう。

良いときは手放しで持ち上げるが、少しでもダメだと手のひらを返したように攻撃的な論調になる。イタリアを何度か訪れていると、この国の人たちはサッカーそのものというよりも、自分のサポートするチームをとても愛している人たちが多いことに気づく。

国の成り立ちが都市ごとの封建領主制を基本にしているので、地元意識が異常なほどに強い。その熱狂的なファンたちは「ティフォージ」と呼ばれる。語源はチフスの熱病に侵された者。ティフォージたちは自らのチームをこよなく愛するがゆえに、一度自分たちの意に沿わぬプレーをした選手には、日本では考えられないほどの手厳しさで接する。マスコミはさらに過激なのだ。

面白い場面に遭遇したことがある。サンシーロでミランの試合を見ていたときのことだ。ミランが敗れた試合だったが、試合が終わった瞬間に敵のサポーターが僕の近くに座っていたイタリア人記者に向かって罵声を浴びせ掛けてきた。あとで説明してもらったら、その人はよく顔写真が出る有名な記者で、前日の新聞で「対戦チームはミランの相手にはならない」という趣旨の記事を書いたという。その記者に向かって敵チームのサポーターは「おまえの書く記事はすべてでたらめだ」と言ったみたいだ。日本ではこんな場面に出くわしたことはない。その意味でイタリアはサポーターも記事を書く者も、かなりの覚悟を持っていなければならないのだ。

入団して3週間あまりで3人目の指揮官。セードルフ新監督の下、トップ下で先発したベローナ戦は、日本人的に見れば本田は無難なプレーに終始した。しかし、ミラニスタ(ミランファン)からすれば、物足りないというのも理解できる。なぜならば現在の本田は、VVVフェンロの本田でもなければCSKAモスクワの本田でもない。ミランの本田だからだ。

この名門クラブの攻撃の選手は、常に他との違いを生み出せる特別な存在でなければいけない。グレートでなければ、ミランでは攻撃の中心になれないのだ。

いくら技術があっても、メンタルが強くなければスター軍団の中では務まらない。その意味で本田に限っては心配する必要はないだろう。あとは、いかに「オレが、オレが」というチームメートが多い中での信頼を勝ち取っていくかだ。本来ならば、新参者にはパスさえ回ってこない。まだ短いプレー時間の中で映像を通して見ている限り、カカ、ロビーニョのブラジル勢、そしてイタリア代表のモントリーボは本田を意識してくれるように思える。それもイタリアを苦しめた昨年のコンフェデレーションズカップの実績が関係しているのだろう。

今シーズンは低迷しているミラン。逆にシーズン途中から加入した本田にとっては、よかったのかもしれない。優勝争いを繰り広げる固定メンバーに食い込むことのほうが、おそらく難しいからだ。

チームが変化を求める中で、変化をもたらせる存在になってほしい。それが実現したときに、本田圭佑という選手のグレードは、これまで日本人選手が成し遂げられなかったレベルに達している可能性がある。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている