最近、「ライブ」という言葉についてよく考える。テレビの生中継ができるようになって何年たつかは知らないけれど、近年は文字情報も即座に流れるようになった。スポーツの結果、いや、近頃は経過さえがライブだ。例えば大リーグの1球速報なら投手、打者が誰で、投球ごとに球速、球種、コースまで分かる。ゴルフなら1打速報で石川遼のティーショットが右のラフにいったとか、3メートルを沈めてパーと知れるし、サッカーだってチャンスのたびに文字情報が流れ、ACミランの本田が「味方の放ったシュートをGKが弾き、こぼれ球を左足で真ん中に決めて移籍後初ゴール」なんてことが数秒後に分かる。速報が重視される通信社記者として、この流れに対応しないといけない、と力が入る。

ところで先日、天気予報がこの冬一番の寒波到来を告げたころ、担当競技のゴルフを離れ、慣れないラグビーの取材に行った。当たり前だが、スタジアム観戦はすごく「寒かった」。プラスチック製の椅子はきんきんに冷えている。おっさんくさいズボン下を履き、背中と腹には貼るカイロ、手袋はパソコンを打つ時のために薄手を1枚、さらに上から厚手をはめた。それでも手足はかじかみ、小刻みに体を動かさないと耐えられない。

ここで、入場してくるラガーマンを見て、目が点になった。なんだ、あれ。半袖、短パン。今どき小学生でもそんな格好はしないでしょ。手袋もしていない。筋骨隆々たるフィフティーンは、全身に湯気をまとってフィールドに立つと、激しい肉弾戦を繰り広げた。

わたしがやっていたアメリカンフットボールは、同じ秋から冬季に行われるが、長袖も着るし、ポジションによっては手袋も着ける。大きさは違うがボールの形も似ているのに、この差は何なんだ。そんな疑問を口にしたら、元サントリーラグビー部の関係者が教えてくれた。「だって、厚着したらすぐつかまっちゃう。不利でしょ」。そうか。体中に装具をつけ、ヘルメットまでかぶるアメフットと、最低限の防具で抑え、人体対人体に近い状態で戦うラグビーの違いか。真偽のほどはともかく、それで納得した。

そしてふと気が付いた。こういうことって自分が寒さに震えていないと思いつかない。入社したばかりのころ、先輩から「色とにおいが書けるようになれ」と言われた。つまり空気感。テレビだけでは絶対にわからない部分を現場に行く記者は五感で吸収し、文章として表現するべし。そう教わった。

ところがこれが意外と簡単じゃない。通信社だけでなく、今や新聞も、雑誌だってネットを無視できないから、記者は終了後即座に(あるいは試合中に)原稿を書く必要がある。パソコンで書くから、電源だって必要だ。かくして記者はガラス張りの室内に閉じこもりがちとなる。ゴルフで言えばプレスルームには主力選手の全ホール成績が映し出される。極端な話、コースに行かなくても、帰ってくる選手の話を聞けば記事は書ける。

私は幸運にも2年連続でマスターズ・トーナメントを取材させていただいたが、実は優勝の瞬間にはどちらも立ち会えていない。日本との時差や注目度を考えれば、決定後即座に連絡、および原稿が必要になるからだ。他の会場なら前もって提稿し、携帯電話で速報することが可能なのだが、オーガスタ・ナショナルGCはコース内の携帯電話持ち込みが厳しく禁じられているため、記者室でモニター観戦となった。

昨年の最終日はプレーオフまでもつれたことから、暗闇の中で表彰式が行われた。こう書いても信じない人は多いだろう。なぜならテレビで笑う勝者アダム・スコット(オーストラリア)はくっきり明るく映っていたのだ。最近のテレビは受像機、カメラともにものすごく性能が高いのだろう。だがその時、窓の外は真っ暗。グリーン横で見ていた他社の記者は「暗くてろくに見えなかった」とぼやいていた。でも、それこそが「ライブ」の醍醐味。その記者をうらやましく思う気持ちは、忘れず持ち続けたい。

木村 壮太(きむら・そうた)1973年生まれ。横浜市出身。97年共同通信に入社し、相撲、プロ野球(オリックス、阪神、横浜)などを取材。2007年からボストン支局でレッドソックスを中心に大リーグを担当。12年1月に帰国し、ゴルフ担当に。