日本のサッカーマスコミが、これだけ戦術論やシステム論を語るようになったのは、いつの頃からだろうか。少なくともJリーグが開幕する以前は、対戦する両チームのフォーメーションがどうのこうのという専門的なことに、紙面もしくは誌面を割くことは、ほとんどなかったと記憶している。

しかし、多くの「言葉」を持った海外の指導者が日本にやってきたことで、その伝聞を受け、日本のサッカー界には瞬く間に戦術やシステムを語る文化が定着した。そして、戦術を語ることは、いまや一般の人たちにとっても大きな楽しみになっている。

サッカーという競技を詰将棋のように理詰めで考えれば考えるほど、「こうやればいいじゃないか」という解答が簡単に出てくるような錯覚にとらわれる。例えば2点をリードした状況で試合の終盤を迎えたら、試合の締めくくりはこのように持っていくんだと。

ところが、時にこの理論というのがまったく当てはまらない試合に出くわすことがある。今回の高校選手権決勝戦の富山第一(富山県)と星稜(石川県)の一戦が、まさにそれだったのではないだろうか。

延長戦も含めた110分間の激闘の末、勝者と敗者の明暗は分かれた。出された結果は選手や監督、スタッフにとってはとても大きな差なのかもしれない。ただ、第三者の立場からいえばそれは二次的なもので、純粋に両チームともが称賛される。とにかくすごい試合を見せてもらったという印象だ。それと同時に理詰めだけでは解明のできない、このボールゲームの奥深さをあらためて思い知らされた感じだ。

決勝戦は理論に照らし合わせれば、まさに摩訶不思議が満載のゲームだった。試合開始から試合を優勢に進めた富山第一。対する星稜はほとんど攻め手をつかめなかった。しかし、先制点を奪ったのは星稜。前半34分に得たPKを寺村介が豪快に決めた。そして、これが星稜の初シュートだった。

ポゼッション・サッカー全盛の中で、堅い守備を基盤にワンチャンスを生かす。こういう戦い方もあると示した星稜は、後半25分にも上田大空の中盤の見事なボール奪取から仲谷将樹がつなぎ、最後は森山泰希が鮮やかなヘッドを決めて2点目を奪った。

サッカーに判定というのがあったなら、間違いなく富山第一の試合なのに、スコアは星稜の2点リード。サッカーというのは、まったくもって分からないスポーツだ。

確かにサッカーでは「2―0が最も危ない」という言葉をよく耳にする。しかし、それは過去にあった2点差のゲームが引っ繰り返された印象が、あまりにも鮮烈に人々に脳裏に焼き付いているからだろう。高いレベルの試合で、実際に0―2から逆転を演じるという場面にあまり出くわしたことはない。

終始、攻勢に出る富山第一。それでも今大会の準決勝までの4試合を無失点に抑えている星稜がそう簡単に崩れることはないだろうと思っていた。特にGKの近藤大河はこの試合の序盤にも好セーブを披露。高校生とは思えぬ寄せの速さを見せる鍛えられたDF陣も含め、星稜の守備の堅さはこの大会でも随一のものだった。

ところが分からないものだ。アディショナルタイムを含めて5分あまりとなった後半42分、交代出場した富山第一の高浪奨の1点差とするゴールで流れが変わった。そこからは技術論では説明のできない、精神面での戦いが始まった。

正規の45分を過ぎた後半46分、川縁大雅のパスを受けて突破しようとした竹澤昴樹が倒されて得たPK。星稜のタックルを仕掛けた森下洋平にすれば、「このプレーを切れば」との思いがあったのだろう。おそらく練習試合ならあの場面で無理に飛び込むことはなかっただろう。それが日本一のタイトルを目前とした、常人には想像できない精神状態の産物なのだろう。

それにしてもあのプレッシャーの中で同点PKを決めた富山第一のキャプテン、大塚翔の胆力には感服する。彼だけでなく、あのピッチで戦ったすべての選手たちの精神的強さは、試合に接した多くの人たちに伝わったのではないだろうか。

延長後半9分の村井和樹の豪快な左足シュートがネットを揺らし、優勝旗は富山第一に渡った。しかし、延長前半の藤田峻作のバーをたたいたロングシュートが数センチ下だったら、また結果も違ったものとなっていたはずだ。大切なのは、伝統ある国立競技場のピッチで彼らがなにを演じたかという事実だ。

高校選手権が首都圏開催となった1976年度以降、決勝戦で2点差を逆転したのは富山第一が初めてだという。この奇跡的な逆転劇の要因をこじつけるとしたら、試合時間が関係するだろう。選手権は準々決勝までは40分ハーフ。ところが準決勝からは45分ハーフになる。この前後半5分の追加が、多少は影響したのではないだろうか。もし通常の40分ハーフだったら、星稜は2―0で終わらせていたことになる。それだけ試合時間というものは、選手の体に染みついている。

それにしても両チームの心が、ひしひしと伝わってくる名勝負だった。高校生がここまでの感動を日本中の人々に伝えられるのだ。いくら高度な技術を見せつけられても、人はここまで心を揺さぶられない。その意味で富山第一、星稜の両校イレブンは、50年近く日本サッカーの聖地だった現在の国立競技場に誰もが忘れない足跡を刻んだのではないだろうか。やっぱりサッカーで一番大切なのは、戦術ではなく魂だ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている