ノルディックスキーのワールドカップ(W杯)が11月下旬のジャンプ男子を皮切りにスタートし、ソチ冬季五輪を間近に控えて今たけなわだ。担当として開幕から1カ月あまり、欧州各地を転々として取材に駆け回っている。ジャンプ女子では昨季個人総合女王の高梨沙羅(クラレ)が開幕3連勝と絶好調。男子でも41歳の葛西紀明(土屋ホーム)が最年長での表彰台となる3位に入るなど、序盤で3人が表彰台に立った。複合でも渡部暁斗(北野建設)は6戦中4度が表彰台と各種目で活躍している。試合前後に選手やコーチらに話を聞くのはもちろんだが、今回の海外取材でぜひ話をうかがいたい人がいた。

複数の選手から「ラムソーに行けば“いいもの"が食べられるので」と聞いたのがきっかけだった。“いいもの"をつくるのは1998年長野五輪のノルディック距離女子代表だった横山久美子さん(41)。新潟県出身で妹の寿美子さんとともに長野五輪の舞台に立った。2002年夏に現役を引退。03年9月にスキーメーカーのサービスマンを務めるオーストリア人と結婚し、人口約3000人のオーストリア・ラムソーに住み始めた。10年が経過し、現在は2児の母。日本人は横山さんだけという。“いいもの"とはオーストリア名物でシュニッツェルと呼ばれるカツレツ入りの「勝つ(カツ)カレー」など、横山さん手作りの日本食だ。

「選手をしていなかったらここにはいない。スキーへの恩返しというか、やらなきゃいけないでしょ」とボランティアとしての心構えを事もなげに話す。横山さんが現役の時にも遠征先の日本人に日本食の差し入れなど世話になった経験があり、自然と行動に移った。初めは選手とお茶を飲んで雑談するぐらいだったが、08年ごろから「苦手な人が少なくて日本人になじみがある」カレーライスや、抹茶やあずきを使ったデザートを作るようになった。ジャンプ女子の先駆者で現在はコーチをしている山田いずみさんがコンチネンタル杯で初優勝した時もカレーを口にしたという。

12月14、15日のW杯の前に、複合陣には勝つカレーと「粘り」のモチ入りの汁粉を差し入れした。舌鼓を打ったエース渡部暁は「日本食はいつもありがたいし、チーム以外の日本人と話すのもいい」と感謝した。支援はトップ選手に限らず、県の合宿で訪れた選手にも同様だ。種目もほかに、バイアスロン、アルペン女子、パラリンピアンら多岐にわたり「来るもの拒まず」の心意気で臨む。

取材後の翌週、横山さんはW杯距離の会場だったイタリアのアシアゴにいた。ともに同郷の恩田祐一(アークコミュニケーションズ)と宮沢大志(早大)を応援するためで、炊飯器と新潟産の米を持参した。その成果かどうかは分からないが2人は団体スプリントで全日本スキー連盟の五輪派遣基準(8位)をクリアする6位に入った。「これからもラムソーで日本選手のために、陰ながら支えていきたい」。そんな思いを持ち続ける人が海外遠征の選手を癒やし、支えて、力になっている。

(年内は本稿で終了し新年は1月15日付からスタートします)

城山 教太(しろやま・きょうた)1976年、札幌市出身。00年共同通信入社。京都、鳥取、広島支局で警察、行政などを担当して10年春に運動部へ。現在はレスリング、スキーなどをカバー。