今年の大学野球は11月の明治神宮大会で終わった。この大会で優勝したのが東都大学リーグの亜大で、東京六大学リーグで春秋連覇の明大を決勝で破った。

東都大学リーグは“戦国東都"と言われ1、2部入れ替え戦がいつも監督の頭を悩ませている。同リーグで最多優勝回数を誇る専大、さらに東洋大、日大の名門校は現在2部にいる。そんな厳しいリーグで亜大は2011年秋から史上3校目の5連覇を達成したが、全日本大学選手権と明治神宮大会の全国大会でなかなか頂点に立てなかった。

東浜巨投手(現ソフトバンク)という絶対的なエースを擁しながら勝てなかった。そこに大学野球の監督の難しさを見る思いだ。

▽選手を信じた生田監督

監督9年目の亜大・生田勉監督はそれまでの指導方針を180度変えて、今年の大会に臨んだ。「今までの上から目線を改め、このチームは選手のものなんだと思うようにした。選手の自主性に任せてみた」。監督が事細かく指示するのをやめて、主将で捕手の嶺井博希(DeNAからドラフト3位指名)やエース九里亜蓮(広島から同2位指名)の4年生らにチーム運営を託した。

いわば「監督が腹をくくった」のである。選手たちは明大との1点差試合にも力を発揮した。私は多くの大学日本一のチームを見てきて「大一番での決め手は監督さい配より選手の底力」と結論付けていたから、亜大が過去4回の大会で勝てなかったのは「選手を信用し切れない」結果だと思っていた。生田監督の指導の引き出しが一つ増えたと言っていい。

▽プロと高校の狭間の存在

大学野球はプロ野球と高校野球のちょうど間に位置すると思っている。技術的にも精神的にも、である。

プロ野球で名将と言われた東京国際大の古葉竹識監督から「プロは仕事だから放っておいてもやるけど、大学野球部は甲子園で燃え尽きた選手が結構いて、目的を持てない中途半端な選手も多い」と聞いたことがある。

プロ野球を目指す選手や大学で野球をやりたいという選手はいいのだが、子どもの頃からの延長で漫然と野球をやっている選手は、何事も中途半端になる。ちょっとした大学野球部の部員は150人ぐらいおり、そこでの人間関係などで挫折する選手も実に多いことも、大学野球の特徴といえる。

慶大野球部は常時200人を超す部員がいる。この秋まで4年間にわたり母校の監督を務めた元巨人、中日内野手の江藤省三氏は「大学の方針で部に入りたい人は拒めないので何人でも受け入る」と、大所帯に苦笑いした。

慶大野球部ともなれば、就職時に有利になると入部する学生も多いらしいが、これを束ね円滑な運営となると大変である。成績が振るわなかった慶大は江藤氏の指導で打力が見違えるようになり2度のリーグ戦制覇を成し遂げた。

「チームの土台作りはできた」と話したが、常に優勝争いできるチームを作る難しさを味わったことだろう。江藤氏は今後もアマ野球の指導にかかわるそうだ。

▽東大野球部受験を教える浜田監督

東大は今年も勝てなかった。2010年秋の早大・齋藤祐樹(現日本ハム)から勝利を奪って以来、勝てず66連敗(2分けを挟む)となった。

来年春は東大最多の70連敗が話題になりそうだが、甲子園出場組が目白押しの他5大学との実力差は開くばかりであるのが現状だ。西の京大(関西学生連盟)はどうかと見れば、2012年春に60連敗で止めた後、同秋1勝、今年春2勝、秋1勝と勝っている。

東大は今年春から就任した浜田一志監督が元巨人投手の桑田真澄氏を特別コーチに招くなど、選手の意識改革に取り組んでいる。自らスカウト部長として、せっせと「東大野球部に入りたい高校生」に受験勉強を教える塾経営者がもう一つの顔である。

就任以来「春1勝、秋2勝」を公言したが、春は早大に完全試合を、秋は慶大にノーヒットノーランをやられた。浜田監督は「えらい試練を与えられている」と言い、敗戦に涙を見せる選手がいたのには、正直驚いた。案外、1勝は近いのではないだろうか。

▽東大は先駆者たれ

11月24日に東大と明学大(首都大学2部)の記念試合が神宮球場で行われた。日本野球の草創期を担った両校は1886年当時のユニホームで対戦(明学大が3―1で勝利)した。

紛れもなく東大野球部は日本の野球を作ってきた先駆者である。先ごろ亡くなった元巨人監督の川上哲治さんは「ドジャース戦法」を参考にした戦術的野球でV9を達成した。そのアル・キャンパネス著の「ドジャースの戦法」を翻訳して世に送り出したのは第3代プロ野球コミッショナーを務めた内村祐之氏だった。

精神医学者としても著名だった内村氏は戦前の東大のエースで早慶を立て続けに破って名を馳せ、東大野球部長も務めた人だ。

私は東大の試合を見ていて内村氏を頭に描きながら「あっと言わせる戦術はないのか」と、メジャーの「マネーボール」日本版を夢想し、はたまたナックルボーラーは出て来ないのかと期待する。

京大にはいないプロ選手を5人も出している東大が他5大学に「東大戦が優勝の鍵を握る」と言わせる日が来るのかどうか、楽しみにしている。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆