またこの季節がやってきた。担当するスピードスケートのシーズンが開幕し、ソチ冬季五輪の出場枠を争うワールドカップ(W杯)も始まった。世界各地を転戦する選手を追い掛けてレースを取材するが、氷上での戦いとともに移動の苦労も目の当たりにしている。

第1戦(11月8~10日)が行われたカナダのカルガリーから、第2戦(11月15~17日)の開催地、米ソルトレークシティーへ向かった。たまたま選手と同便での移動となった。早朝の空港でチェックインに並んでいたところ、日本代表の今村俊明監督から「今日は荷物届きませんよ、覚悟しておいてください」と声をかけられた。何のことやらと思ったが、どうやら預け入れの荷物をすべて積み込めないという。

選手の荷物は膨大だ。機内に持ち込むバッグとは別に、ほとんどの選手が道具、食料を詰めたスーツケースを二つ持ってきている。そのほかにマッサージ用のマットレスなどかさばる物も多く、選手によっては練習用の自転車まで持ち運ぶ。今回の便は、100人も乗れないほどの小さな航空機だった。海外勢も含めて乗客の大半をスピードスケート選手が占めたため、小型の飛行機には積めない量の荷物が殺到した。

ソルトレークシティーに着くと、今村監督の予言通り私のスーツケースはもちろん、選手の荷物もほとんど出てこない。長年、日本代表で活躍するベテランの及川佑(大和ハウス)は「ここの区間の移動はいつもこんな感じ。もう少し何とかならないものですかね…」と困り顔だ。翌日は朝からリンクでの練習が始まる。スケート靴を預けた選手も多く、航空会社のサービスカウンターではロシアチームのスタッフが「靴だけでもすぐに運んできて」と懇願していた。

結局、深夜から翌日の未明にかけて荷物はホテルに届いたそうだが、日本チームは練習時間を午後に変更するなど慌ただしかった。思い通りに練習できなくても、レースはやってくる。選手としてもW杯を転戦した富士急の黒岩彰監督は「条件はみんな同じ。どんなアクシデントにも対応する、いろんな面でのタフさが必要」と力説した。

国内に400メートルリンクがなく、スケートが盛んとは言えないチェコ出身ながら、2010年バンクーバー冬季五輪で長距離2冠に輝いたマルティナ・サブリコバはかつて、コーチの運転するワゴン車でヨーロッパ各地を転々としてレースを重ね、力をつけたという。このハングリー精神を聞くと、長時間のフライトやロストバゲージなど移動のトラブルは、たいした苦労でないように思えてくる。

29日からの第3戦は、日本からのアクセスが悪いカザフスタンのアスタナを舞台とする。冬は気温マイナス30度まで下がることも珍しくない中央アジアの極寒の街へ、ドイツのフランクフルトを経由して入ると、乗り継ぎを含めて20時間ほどかかる。あちこちのW杯開催地を巡ったが、アスタナへの移動が一番ぐったりする。スケートに限った話ではないが、こうした過酷な移動を経て、普段と違う環境でベストパフォーマンスを発揮する選手たちには本当に恐れ入る。取材する側もタフでなければと常々思うし、あちこち飛び回るのも好きだが、「移動で疲れた」「時差ぼけでしんどい」などとつい愚痴をこぼしてしまうのはなかなか直りそうにない。

菊浦 佑介(きくうら・ゆうすけ)1983年生まれ。鹿児島県出身。2006年共同通信社入社。福岡支社運動部、大阪支社社会部を経て10年5月から本社運動部で水泳、スピードスケートなどを担当。