長らくサッカーを見ていると、珍しいプレーにも出くわすものだが、11月10日のFC東京対セレッソ大阪の試合では、まさにその場面に遭遇した。GKのアシストで得点が生まれる瞬間を見たのだ。

引き分けムードが濃厚になった、1―1で迎えた後半42分だった。セレッソのゴールキック。プレーが切れ、両チームの選手ともが一息ついた状態にあって、ピッチに立つ22人の中で二人の選手だけが明確な意図を持っていた。それが、セレッソのGKキム・ジンヒョンと最前線に立つ柿谷曜一朗だった。

ゆっくりと最終ラインを押し上げるFC東京のDF陣。その時、柿谷の位置はオフサイド・ポジションだった。ただ、忘れてならないのは、ゴールエリア内にボールをプレイスしてGKやDFが蹴るゴールキックには、オフサイドが適用されないということだ。

キム・ジンヒョンの驚異的なキック力から生み出された約80メートルのラストパス。柿谷はボールがワンバウンドして落ちるまでの間に、FC東京GK権田修一のポジションを確認。右足ダイレクトで前に出てきた権田の股間を抜き、鮮やかな決勝ゴールを奪った。

このゴールを生むためにセレッソが擁したボールタッチ数は、ゴールキックとシュートのわずか2タッチ。なんと効率の良いことだろう。ある意味で美だ。

思い出したのは、かつてのスーパースターの名言だった。サイド攻撃が主流だった1970年代。潮流に逆らうように中央突破からゴールを量産する、黄金のコンビがいた。FCバイエルンと西ドイツ(当時)代表で黄金期を築きあげた“カイザー(皇帝)"、フランツ・ベッケンバウアーと“ボンバー(爆撃機)"、ゲルト・ミュラーの二人だ。あるときベッケンバウアーは「なぜ中央突破をするのか」と記者に尋ねられたという。カイザーの答えは実に単純だった。

「中央が111番ゴールに近いから」

FCバルセロナが一時代を築いたことで、手数をかけたパスサッカーが美徳とされるような風潮にある。それは日本代表にも言えるのではないか。でも、それが果たして正解なのか。個人的には「簡単なほうが良い」と思っている。なぜなら、1点は1点の価値であって、それ以上でもそれ以下でもないからだ。

昔から思っていたことがある。GKのゴールキックやパントキックが、そのまま相手最終ラインの裏を突くスルーパスになれば、サッカーなんて簡単なものじゃないかと。

ただ、そのようなキック力と精度の高さを持ったGKなんて、世界を見てもそういるものではない。記憶に残るのは、元アルゼンチン代表のロベルト・アボンダンシエリだ。彼の場合はゴールキックではなく、オフサイドの適用されるパントキックだが、とにかくすごいキックを持っていた。いわゆるボールを回し蹴りのようにサイドから蹴る南米独特のキック法。低く速い弾道で正確にFWに合わせてくるフィードは、相手のCKがそのままカウンターのチャンスになっていた。

CKをアボンダンシエリがキャッチすると、前線に残ったデルガドがオフサイドに引っ掛からないようにDFから逃れて横に走り、キックが放たれる瞬間に縦に進路を変える。そこにピンポイントのパスが合わされるというのがボカ・ジュニアーズ攻撃の重要なオプションだった。

同じことを考えていたGKは日本にもいた。今シーズンでの引退を発表したジェフ千葉の櫛野亮だ。以前、彼に話を聞いたとき、内容の多くがゴールキーピング論ではなく、キック論だった。

「なるべく低い弾道のパントを蹴りたい。DFにカットされそうな高さのボールを。でもそれが守備網の間を抜けて味方に届けば、一発でビッグチャンスになる」

空中に高く舞うパントは、距離が出るかもしれないが、DFも戻る時間が稼げる。その意味で櫛野の考えは理にかなっていた。

今回の柿谷のゴールにつながったキム・ジンヒョンのゴールキックには布石があった。それまでは通常の高く浮くキックを蹴っていたのだ。この試合で、低い弾道のキックを蹴ったのは前半の一回だけ。一撃必殺のキックを数多く蹴らないことが、結果的に相手守備陣に対しての目くらましとなったのだ。

「(ゴールは)ジンヒョンのキックが良かっただけ。あそこまでキックが飛ぶと(相手は)思わないでしょう。でも、僕は知っているからね」

セレッソはこの形を練習でも繰り返しているという。その上でのゴールキックをチャンスと感知した決勝ゴール。柿谷の「準備勝ち」だった。

一方、アシストを決めたキム・ジンヒョンは、あの場面で一度は低い弾道のキックをやめようと思ったという。

「でも曜一朗と目が合って、彼が走りだした。スペースもあったし、(FC東京の)森重さんのポジションも高かったから。今日はたまたま、たまたまです」。流ちょうな日本語で、こう話した。

帰宅してニュースで確認したら、予想通りゴールキックの場面は映像では追い切れていなかった。まあ、ゴールキックがアシストになると普通は思わない。しょうがないだろう。

それにしてもこの日は、GKが得点に絡む珍しい日だった。J2松本山雅の村山智彦がFKから、GKとしてJリーグで4人目のゴールを決めたみたいだ。

自チームの得点の直後に、仲間からGKが取り囲まれて祝福されるという珍しい光景。11月10日のJリーグでは二度見られたわけだ。その一つを目の当たりにできただけで、この日はラッキーだった。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。