表情に少年の面影を残す、まだ17歳未満の若者たちには酷かもしれないが、彼らは時間を巻き戻すことはできないということを痛いほど思い知ったのではないだろうか。現在、アラブ首長国連邦(UAE)で開催されているU―17ワールドカップ(W杯)を見てそう思った。

さまざまなカテゴリーの日本代表の大会を振り返ったとき、「もったいなかったな」と思う試合がある。近年ならベスト16でPK戦の末に敗れた2010年のW杯南アフリカ大会のパラグアイ戦や、同じくPK戦で米国に敗れ、ベスト4進出を逃した2000年のシドニー五輪だ。この二つは実力的に勝敗がどちらに転んでもおかしくない内容だった。

これら以上に、今回の敗戦は残念だった。確かに1―2と正規の90分のなかで勝負をつけられた。とはいえ、決勝トーナメント1回戦のスウェーデンは、日本が勝利するに値する一戦だった。ボール保持率を示すポゼッション率では日本の75パーセントに対し、スウェーデンはわずかに25パーセント。この数字はサッカーの世界では考えられないほどの一方的な内容だ。その優位性を生かせずに敗れたというのは、ある意味で衝撃的なことでもあるのだが。

「体格差があるなら、できるだけぶつからないように、ボールを浮かせないように、しっかりと(パスを)つないでカバーする」

2年前のベスト8に輝いたチームに続き、今回もまた吉武博文監督の哲学をピッチに具現化したチームは、間違いなく最大の注目の的だった。GKの3選手も含めた21名のメンバーが試合ごとに総入れ替えで出場してくる。しかも守備の要であるセンターバックのポジションに、本来はFWやMFの身長170センチ前後の小柄な選手を意に介することなく起用。この選手たちが、誰が出場しても同じサッカーを展開し、グループリーグで3連勝を成し遂げた。彼らがUAEのピッチで繰り広げたショーは、ある意味でサッカーの常識を覆す出来事だった。

ただ、ノックアウト方式のトーナメントに入って、事情は変わった。前半11分という早い時間帯に先制され、さらに前半36分に追加点を奪われたというあせりが、どこかにあったのかもしれない。一発勝負の緊迫感は、ボール保持はしているものの、前3試合のような効果的な崩しにはつながらなかった。

圧倒的なボール保持という理想を追求し、忠実に実行した日本。対するスウェーデンは、勝負に対しての現実主義者だったといっていいだろう。

グループリーグの3試合を見た敵将ラーション監督の頭には「互角の打ち合いをすれば必ずやられる」との考えがあったのだろう。日本を相手にしたロシア、ベネズエラ、チュニジアのどのチームもが、体力任せに日本からボールを奪い取ろうとチェイスし、最終的に体力を奪われ終盤に足がつる選手が続出した。その事実を目の当たりにすれば、勝負はいかに終盤まで体力を温存するかとなるのは当然だ。

結果として、試合の流れはスウェーデンの側にこれ以上なくうまくはまったという感じだった。2トップを前線に残して、4枚のDFと4枚のMFが規則正しいラインを敷いて自陣に引きこもるリトリート戦法。2本のカウンターが、絵に描いたようにうまく決まり2得点を挙げたのも、守備の我慢を耐える精神的余裕になった。

自分たちからボールを奪いに行くのではなく、日本が守備ブロックに入ってきたら選手間の間隔を狭めた守備網に引っ掛ける。移動距離が少ないので、日本と過去に対戦したチームのようにガス欠にもなりにくい。しかも上背のない日本が空中戦を挑んでくる可能性は少ないので、地上戦だけに集中すればいい。その意味でスウェーデンの守備陣は的を絞りやすかったのではないだろうか。

残念なのは日本がボールを回すことに終始して、得点を奪うためのチャレンジをあまり見せなかったことだ。攻撃のスイッチの切り替えというか、スピードを上げたり、多少無理だと思っても縦パスを選択したりする場面が多ければ、スウェーデンの守備もさらに混乱したことだろう。守り一辺倒の試合を続けるのは、体力はもちろんだが、精神的にもかなり辛い。心にダメージを与えるプレーを繰り返せば、結果は違うものになっていた可能性は高い。

日本の選手たちは、スウェーデンともう一度戦いたいと思っているだろう。そうなれば、勝つ可能性はかなり高いだろう。しかし、これが真剣勝負のトーナメントというもの。わずか25パーセントのポゼッションでも、得点を多く奪った方が勝つ。日本の若者たちは、大きな代償を払ってサッカーの本質を学んだのではないだろうか。

U―17日本代表の試合をもう少し見たかった。そう思っているのは、なにも日本人だけではないだろう。彼らの試合を一度でも目にした世界中の人たちは、吉武ジャパンのこれまでお目にかかったことのない斬新な戦術に魅了されたのではないだろうか。

大排気量のガソリン車相手に、小回りの利くハイブリッド車が縦横無尽にかき回し、相手をガス欠地獄に陥らせる。これまで相手の体力を奪うという戦法は聞いたことがあるが、相手の足をけいれんさせて動けなくするというサッカーを初めて見た。それだけにベスト16での敗退は、あまりにも残念だった。

スイスにある国際サッカー連盟(FIFA)の本部には、世界大会の象徴的な戦術が展示されているという。おそらく勝ち進めば、そこに吉武ジャパンの斬新な戦術が展示された可能性は高い。だからもっとこのチームには勝ち進んでほしかった。つくづく残念だ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている