ほんの3カ月ちょっとも前の、あの威勢のよい言葉が、いまとなっては懐かしい。

「世界一を狙いに行く」

日本代表がコンフェデレーションズカップ参加のためにブラジルに旅立つ前に、よく聞かれた言葉だ。

本田圭佑をはじめとするサムライブルーの選手たちは、あの時点では自分たちのチームは、上昇曲線を描くことを信じて疑わなかったはずだ。そういうわれわれも、「世界一は無理だろう」と思いながらも、日本代表がさらなるパワーアップを図ることを期待していた。

自戒の念も込めて、日本のスポーツマスコミは、現時点より未来が確実によくなるものと決めつけて報道をしがちだ。だから有力選手が出場していない世界選手権で日本人選手が銅メダルを獲得すれば、その選手はただちに五輪でのメダル候補になってしまう。そして、本当に実力ある選手が出場してきた五輪で、日本人選手がメダルにはるか届かない順位に沈むことで何度がっかりさせられたことか。でも冷静に考えると、実力の序列からいって日本人選手の順位が妥当だったということがよくある。

2010年ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会。ベスト16に進出した日本が、来年のW杯で目標とするのは当然それ以上だ。これはなに一つ間違いではないだろうし、また前回より高い目標を立てなければ、競技自体をやる意味がない。ただ、停滞ならまだしも、後退することもあるということを覚悟しておかなければならないだろう。

事実、われわれの現代表は今回の東欧遠征の2試合、セルビア戦、ベラルーシ戦を通して「以前よりダメになっている」という姿をさらしてしまった。それもW杯本番を8カ月後に控えた時期に。なにかをチャレンジしての失敗ならまだしも、いつものメンバーが、いつものように試合をして、連敗を喫した。そこに、このチームになって「1番内容に欠ける」というおまけがついた。

アウェーといっても先発11人のうち8人が欧州組。長旅から帰国しての日本での試合より、コンディション的にははるかにいいはずだ。だが、失点を許してしまう。そして、セルビア戦の2回、ベラルーシ戦の1回の失点場面に限れば、常に相手の選手より日本選手のほうが数的優位に立っているのだ。それでもゴールを許してしまうのは、ピッチに立っている選手に問題があるのではないだろうか。

「うちは相手より内容的には、より多くのチャンスを作っていた」

敗戦の後にザッケローニ監督が、このところよく繰り返す言葉が鼻につくようになってきた。より多くのチャンスを作っても、2試合連続で点を奪えないのだったら、選手の違う組み合わせを考えるのが普通だろう。そして今回の遠征は、違う組み合わせを試すことのできる最後のタイミングだったはずだ。

FIFAランク42位の日本に対し、セルビアは43位、ベラルーシは80位。とはいえ両国ともにすでにW杯出場を逃しており、メンバー編成は実質2軍だった。

テストには手ごろな相手といえただろう。解せないのは中3日で組まれた2試合の両方に、なぜザッケローニ監督は、メンバーを誰一人代えずに先発させたのか。彼の中でのベストメンバーということは分かるのだが。

それでも勝てば、まだ言い訳はできただろう。ところが結果は、なにも得ることなかった連敗。先日、オーストラリア代表のオジェック監督が、ブラジル戦に続きフランス戦でも0―6の大敗を喫して更迭されたが、対戦相手との力関係を考えれば、日本協会も同じ動きをしてもおかしくはない事態だったのではないだろうか。

選手の入れ替えをせず、固定メンバーで戦う監督というのはよくいる。W杯での日本代表を見ても1998年フランス大会を前にした岡田武史監督のチームは、直前合宿のエクスレバンでレギュラー組と控え組を完全に分けて、控え組にはしらけムードさえ漂っていた。2006年のドイツ大会のジーコ監督も、純然たる序列が確立され、それを崩すことは並大抵ではなかった。ただ、その事例を見ていると、本大会でうまくいった試しがない。もしかしたらザッケローニ監督も、この迷路にはまっているのかもしれない。

勝ち続ければ文句はでないだろう。しかし、負けが続いて控えの選手から指揮官に対する疑問が沸き上がったときは、チームの和というものは簡単に崩壊する。特に清武弘嗣や酒井宏樹などブンデスリーガでチームの中心として活躍している選手にしたら「なんでチャンスをあたえてくれないの」という思いが少なからずあるのは容易に推測できる。

確かにクラブの格というものがあるので、試合に出場していないからといってマンチェスター・ユナイテッドの香川真二を簡単に外すことはできないのだろう。でも今遠征の香川が、その「格」に見合ったプレーを見せたかと言うと、必ずそうとは言い切れない。

サッカーの世界では、監督は負ければ責任を負わされて簡単に首を切られる。だから軽々しく現場のやることに口を出せとは言えない。ただ、日本協会としてはある程度、ザッケローニとそのスタッフに対して方向性としての要望を出すべきだろう。「競争のないチームに進歩はないと」。なぜなら、日本協会は日本のサッカーの未来を考える立場であり、ブラジルW杯が終わればザッケローニは日本を去ってしまうのだから。

日本で最も古い歴史を持つサッカー専門誌が、今月末で実質上消滅する。そのことを考えれば日本のサッカーの未来は、以前ほど希望に満ちたものとは言えない。来年のW杯での惨敗が、もしかしてこの国のサッカーを思わぬ状況に道連れにしないとも限らない。そのために日本協会もでき得る限り手を打つべきだ。いまが、ぎりぎりの期限だ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている