今季のプロ野球はいわゆる「3時間半ルール」が撤廃された。東日本大震災後の節電対策として2年間導入されたこのルールがなくなり、時間無制限の延長十二回制に戻った。節電への意識は高く持たなければいけない。ただ白黒つけるまでが勝負の本質と考えたら、元に戻すのは個人的に賛成だ。(もちろん、引き分けの場合もありますが…)。そして時間無制限でなければ、なかなかお目にかかれないようなゲームに遭遇した。

9月4日の日本ハム―ソフトバンク18回戦(東京ドーム)。両軍ともに勝ち越し機を迎えては逃す展開で延長戦に突入した。十二回にソフトバンクは売り出し中の中村晃が3ランを放ち、日本ハムの追撃を振り切って勝利した。試合時間は6時間1分。時計の針は午前0時を回っていた。延長十二回では史上最長と記録的な試合だった。4日は水曜日と、平日ど真ん中にも関わらず、終了まで見届けた観客にはどちらのファンを問わず妙な一体感を勝手に感じた。ちなみに記者が取材、執筆を終え球場を後にしたのは午前1時半だった。中村がヒーローインタビューで「また、きょう頑張ります」と意気込んだ5日の試合も4時間を超えたが「2時間も早い」と前向きになれるのが不思議だった。

両チームで計18投手を起用したのはパ・リーグ新記録。ソフトバンクはベンチ入りの全10投手をつぎ込んだ。継投に腐心した高山郁夫投手コーチは「中村の3ランが出たときは涙が出そうになった」と本音をぽろり。経験豊富な内川聖一も「興奮して、なかなか眠れなかった」と話した。長丁場の戦いに奮闘した選手や関係者に頭が下がる。

一方で寂しさも胸に残った。記録的な試合だが長く語り継がれるような内容ではなかったからだ。両軍の四球は合わせて18を数え締まったものではなかった。投手陣が粘ったとも言えようが、打線も逸機の連続だった。過去最長は1992年の9月11日、優勝争いをする阪神とヤクルトが延長十五回を戦った6時間26分。八木裕の「幻のサヨナラ本塁打」があった試合で知られる。この試合と比較してもいけないかもしれないが「長かった」以外の印象が今後どれだけ出てくるのか。

各球団の首脳陣、選手は必死に戦っているのはよく承知している。それでも今季は名勝負とうならせるような場面になかなかお目にかかれない。チームでは楽天の快進撃。個人では田中将大(楽天)の連勝記録、バレンティン(ヤクルト)の本塁打記録への挑戦や、大谷翔平(日本ハム)藤浪晋太郎(阪神)の両大型ルーキーの活躍と話題は豊富。ただ個人と個人の意地がぶつかり合うようなシーンは意外と少ない。米大リーグに有力選手が挑戦していることが原因だとしたら今後も先細りになるだけだ。間もなく一投一打に息をのむようなポストシーズンがやってくる。その緊張感をレギュラーシーズンでも多く味わいたい。長い死闘もいいし、一瞬の名勝負ももっと増えて欲しい。毎試合数万人の観客を集めることができるプロ野球は、十分そのエネルギーを秘めていると思っている。

七野 嘉昭(しちの・よしあき)1984年、岐阜県出身。東京外大でカンボジア語を専攻し2008年共同通信入社。翌年末、福岡支社に異動しプロ野球ソフトバンクを中心に取材。今年からサッカー、ゴルフなども担当。