カタールで2022年に開催されるワールドカップ(W杯)に向けての、暑熱対策トレーニングではないかとさえ思わせた今年のJリーグ。記録的猛暑のなか行われた7、8月シリーズが終わった。まだ暑さは続くだろうが、あの過酷な状況から比べれば、選手の感覚としては肉体的にも精神的にもかなり負担は減ったのではないだろうか。

素直にホッとしているのは、そんな条件下でも大きな事故が起こらなかったことだ。2003年6月26日、コンフェデレーションズカップ準決勝。カメルーン代表のマルク=ヴィヴィアン・フォエはジェルラン・スタジアムのピッチに突然倒れ込み、そのまま帰らぬ人となった。昼間の試合だったが、あの日のリヨンもフランスにしては、とても暑い日だった。その悲劇的な事故を目にした者として、今夏のJリーグが何事もなく過ぎ去ったことを心から良かったと思っている。

暑さは間違いなくサッカーの質を低下させる。そして、その影響が大きいのは攻撃と守備を比べれば守備の方だろう。ボールを保持して主導権を握る「攻」に対して、リアクションで対処しなければいけない「守」は、蓄積した過労が原因のわずかな反応の遅れで、大きなピンチを招いてしまう。また守備組織も一人の動きが悪いだけで機能不全に陥ってしまう。

8月28日に行われたJ1第23節、全9試合で生まれたゴールは38点。1試合平均4回以上の得点場面が見られた。さらに8月31日の翌24節も減ったとはいえ23ゴールと、1位試合平均2点以上が記録された。1点を争う試合展開が多いサッカーという競技の特性を考えれば、それでも多い数。逆に見ている側としたら面白いゲームが続いている。

確かにそこには多少の守備の緩さがあることも関係しているだろうが、それだけだろうか。得点者の名前を見ると「役者」の名前がそろっているのだ。

これもW杯効果だろう。2010年8月に就任して以来、アルベルト・ザッケローニ監督は海外組を中心とした、ほぼ固定したメンバーですべての試合を戦ってきた。今年7月のコンフェデレーションズカップまでは、一部のメンバーを除き国内組は蚊帳の外という感があった。しかし、国内組だけで東アジアカップを制したことで、ザッケローニ監督、さらにはJリーグ組の意識が確実に変化しているのではないか。

サッカー選手なら、誰もがメンバーに名を連ね、W杯の舞台に立ちたいというのは当然だ。モチベーションの要因が、それがすべてではないにしろ、ここのところとにかく高い質のプレーが維持されている。それも、これまで日本の弱点といわれたストライカーのポジションに特に集中しているのだ。

第24節終了時点で、得点王争い10傑に入る日本人選手は、何と8人。助っ人の外国籍選手にランキングの上位を独占されていた一昔前からは考えられない状況だ。そして、この日本人選手はそれぞれに特徴を持っている。

東アジア優勝メンバーで見ると、フィジカルが強くDFの背後からニアサイドに飛び込んで勝負のできる豊田陽平(サガン鳥栖/16点)、サイドからゴール前に飛び出し、シュートのタイミングをつかませない工藤壮人(柏レイソル/15点)、鹿島アントラーズで1トップを務めるようになってから飛躍的な得点率を誇る大迫勇也(14点)、ファーストタッチとGKの逆を突くシュートに天才的な輝きを見せる柿谷曜一朗(セレッソ大阪/14点)。

まだザッケローニ監督には招集されていないが左右両足、さらにヘッドのどこでも得点の狙える渡邉千真(FC東京/17点)、粗削りながら左足に非凡なものを持つファイターの川又堅碁(アルビレックス新潟/15点)。そして南アフリカ組の大久保嘉人(川崎フロンターレ/18点)と、かつてのウルグアイの名手ルベン・ソサではないが「ゴールの詩人」と呼ぶにふさわしい佐藤寿人(サンフレッチェ広島/15点)もいる。気づいてみれば、これだけコンスタントにゴールを挙げられる選手が日本サッカー界にそろってことがあっただろうか。

確かにJリーグでの活躍が、そのままインターナショナルな舞台でのパフォーマンスと必ずしも結びつくとは言い切れない。周囲との連係もある。ただ人材不足の中での「ベター」を選び出すのと、多くの選択肢から「ベスト」をチョイスするのでは意味は異なってくる。それを考えれば固定メンバーで行き詰まりと感じていた時期に、Jリーグのストライカーたちが飛躍的に能力を伸ばしてきたのは、ザッケローニ監督にとっての幸運だろう。

9月のグアテマラとガーナを戦うメンバーを発表した席上、指揮官はこのようなコメントを残した。

「代表候補の選手全員が得点を取るような状況を生み出している。メンバーを選ぶのに苦労したし、特に攻撃陣に(チームに)呼べなくて残念な選手がいるのも事実だ」

メンバー発表前日のFC東京戦で2得点。鳥栖の豊田は、残念ながら今回のメンバーには招集されなかった。その豊田の言葉が印象的だった。

「(日本代表に)選ばれることを仮定して、積み重ねていきたい」

その気持ちをすべてのJリーガー、さらに海外組が持ち続けることができれば、来年ブラジルのひのき舞台に立つ日本代表は、さらに強力なチームになっているだろう。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている