一流投手が持つ感覚は繊細で鋭く、そして独特だ。凡人の私は、話を聞きながら「う~ん…」と頭を悩ませるケースも出てくる。6月上旬のある日。プロ野球・巨人の左腕、杉内俊哉の発想に驚かされた。

それまで開幕から調子が上がらず、杉内は決め球であるスライダーの精度に納得がいっていなかった。「曲がりが大きくて、打者がワンテンポ待てる球になっていた」と自ら分析した。本来、杉内のスライダーは打者の手元で鋭角に曲がり、速球だと思って振り始めた打者はどうしようもなく、面白いように空振りしてくれる。通算でプロ野球歴代4位の57度の2桁三振(8月18日現在)を奪った「ドクターK」の大きな武器である。今季は切れが悪く、曲がり始めも早い(言い換えれば、これまでよりも投手寄りで曲がり始める)ために、打者にとって見極めやすい球となった。空振りを奪えずに、当てられてしまった。

この日のブルペンでスライダーを念入りに投げ込んだ。手応えをつかんだのか、途中からは表情も明るく、気持ち良さそうに投げた。練習後、開口一番「スライダーが良かった」と納得の口調で振り返った。何を修正し、どう変えたのか、本人に聞いた。球の握り?「一緒です」。では、投球フォーム?「いえ」。じゃあ、腕の振り?「変えていないです」。答えは「意識を変えた」だった。打者の手元で、切れよく、速く曲がるようにと意識付けし、投球を繰り返したと言う。「投げながら『曲がれ!!』と念じるんです。『びゅっと』曲がれと」と左腕は笑う。これまで何千何万球と投げ、理想の腕を振る角度や速さ、指先の微妙な力の入れ加減などを体が覚え、意識づけを変えるだけで自然と球筋も変わったのだろう。念じたから曲がったのではなくて。と、杉内の話を聞きながら推測した。

そう言えば、同じようなことを以前に担当したロッテでも右のエース、唐川侑己投手から聞いた。一昨年、スライダーが横に曲がったり、斜め下に曲がったりと同じ球種でも球筋が違っていた。本人に聞くと、意図的に変えていると言う。では…。この時も杉内と同じように、握り方などを変えているのかと聞いたが、そうではなかった。握りなどは全く一緒。唐川も意識の持ち方を変えているだけだった。「横に曲がれや、下に落ちろと思って投げれば、その曲がり方をします」と思わぬ答えが返ってきたのをよく覚えている。同じ握り方で、縦と横のスライダーを投げ分ける。これは他のプロ野球の投手でも、なかなか持ち合わせていない独特の技術だろう。唐川ならではの指先の繊細な感覚、器用さがあってこそできる芸当だと解釈し、納得しようとした。

感覚は人それぞれで違い、理路整然と言葉で説明するのが難しい時がある。一流選手ともなれば、それはより緻密で高度だからなお厄介だ。本人ですら気付かないうちに、自然とできている場合もあるだろう。何とかその投手が持つ感覚を言い当てる表現はないかと、押し問答を繰り返すのも楽しい。

浅山慶彦(あさやま・よしひこ)2004年共同通信入社。相撲、ゴルフなどを経て、プロ野球担当に。阪神3年間、ロッテ2年間のカバーを経て12年から巨人担当。愛媛県出身。