ハンドボールを語るとき、この男はとにかく熱い。「魅力のあるスポーツを日本でもメジャーにしたい。そのためにはお客さんがお金を払う価値を感じるリーグにしていかなければいけない」。元日本代表主将の東俊介氏(37)は、大きな夢を抱く。この春、日本リーグ機構が新設したマーケティング部の初代部長に就任し、リーグの収益力の強化という難題に立ち向かっている。

バルセロナ(スペイン)パリ・サンジェルマン(フランス)ハンブルガーSV(ドイツ)…。圧倒的な人気を誇るサッカーと同じように、欧州ではハンドボールのクラブナンバーワンを決める欧州チャンピオンズリーグ(CL)が毎年開催される。その歴史は50年以上で「ビジネスとして成立している」と言う。地域に密着したスポーツクラブは複数の競技でチームを運営し、大きなマーケットを生み出す。

対照的に、日本のハンドボール界は典型的な企業スポーツだ。「ほとんどの観客は会社などから“タダ券"をもらって見に来ている。日本リーグは所属するチームの分担金と助成金で食べている状態」と指摘し、将来像を思い描く。「プロ化することが、リーグとして本当の意味での自立を意味する。プロ契約選手のいるプロチームをつくっていかなければ、いずれハンドボールが衰退するという危機感があるんです」

20周年を迎えたJリーグを理想に掲げる。地域密着でクラブ数を拡大し、百年構想で総合型地域スポーツクラブの設立を推進している。発展が目覚ましいバスケットボール男子のbjリーグから学ぶこともあるという。ハンドボールでは日本リーグ男子で唯一のクラブチーム、琉球コラソンが有料入場者数を大幅に増やす好例を示す。「野球よりもルールは簡単。サッカーよりも点が入る。バスケットボールよりも激しいボディコンタクトがある。競技の魅力は負けていないし、お金もかからない。琉球コラソンの成功は一つのモデルケースになる」と可能性を信じる。

石川県出身で、大崎電気時代はチームの日本一に貢献した。日本代表を外れた2007年の北京五輪アジア予選では当時現役選手でありながら「盛り上がりが足りない。自分がやらなきゃ誰がやる」と応援団長を買って出た熱血漢だ。09年に引退後は早大大学院で元プロ野球選手の桑田真澄氏らとともにスポーツマネジメントを学んだ。スポーツ界にとどまらず財界にも人脈を広げ、貪欲にアイデアを吸収している。

宮崎大輔(大崎電気)のようなスター選手が現れた時は「グッズやチケットを買ってくれていた」と振り返る。北京五輪アジア予選では「中東の笛」で過去にないほどの注目を浴びたが「社会的な話題となった追い風を生かせなかった」という苦い思いが残る。

日本リーグは昨季のプレーオフから男女優勝チームにそれぞれ100万円の賞金を贈る制度を取り入れた。「バレーボールやバスケットボールに追い付くため」(同リーグ)と、日本最高峰のリーグの価値を高める狙いがあった。東氏もマイナーからの脱皮を図る方策に頭をひねる。

「会場が変わらないフットサルのFリーグと連携する手もある」

「試合映像をインターネット配信することで選手に対する親しみを増すことができる」

「日本リーグは実質的にボランティア組織。スポーツマネジメントに興味のある学生をインターンシップで受け入れることを検討し、いずれは専門家集団にしたい」

次々と私案を披露した新部長は「リスクを恐れず一歩を踏み出したい」と変革に燃える。

井上将志(いのうえ・まさし)2003年共同通信入社。名古屋でプロ野球中日、フィギュアスケートを担当。現在は本社運動部でフィギュア、体操、陸上を中心にカバー。バンクーバー冬季、ロンドン夏季五輪も取材。東京都出身。