サッカー日本代表は2014年ワールドカップ(W杯)ブラジル大会のテスト大会、コンフェデレーションズカップで1次リーグ3戦全敗を喫した。3試合で9失点ともろさを露呈したDFの人選を見直すべきだという声も上がっていたころ、J1横浜Mの元日本代表DF中沢佑二と話をする機会があった。

後輩たちならもっとできる。そんな思いがある35歳のセンターバックは「もっともっと細かいところまで突き詰め、できる限りの事を考えて、いろいろな想定をして戦ってほしい」と叱咤(しった)の言葉を口にした。大会を象徴したゴールは初戦のブラジル戦でネイマールに決められたボレーシュートだという。「世界レベルの相手ではどこかでサボったら失点する。結果論だけど、それがよく現れていた」と指摘した。

前半3分。左サイドバックのマルセロが弾丸のような左クロスを上げ、フレジが胸で巧みに落とした。ネイマールはそれを右足で完璧にミートし、ゴールにたたき込んだ。アジアレベルではこの流れのどこかでミスが出る。ブラジルの選手は高い技術を連鎖させ、ゴールへと結実させた。

日本選手はこの間、なすすべなく立ち尽くしていた。相手がすごいから仕方ないと、あっけにとられたような表情を浮かべたように見えた。中沢はもどかしかった。技術レベルが高い相手から、いかにゴールを守るか。それを追求し10年W杯南アフリカ大会で16強入りする原動力となった自負がある。「仕方ないゴールなんてない」と強い口調で言い切った。

問題視したのはマルセロに対する本田圭佑(CSKAモスクワ)の対応、そしてクロスが入った後の今野泰幸(G大阪)や吉田麻也(サウサンプトン)の詰めの甘さだ。「マルセロに対面した本田がフリーでクロスを蹴らせた。それを本田に誰かが言わないと。『おまえ、もっと相手との距離を詰めろよ。もっと詰めてバックパスさせろよ』と。今野と吉田もネイマールに寄せきれなかった。体を当てていかなければ」。言葉はどんどん熱を帯びた。

中沢も王国相手に苦い経験をした。06年W杯ドイツ大会ブラジル戦。1―3の後半36分にロナウドに決められたミドルシュートが忘れられない。「あそこでロナウドに決められてから、シュートする相手との距離を詰め始めました」と振り返る。DFとしての判断基準が根本から変わった1発だった。

ロナウドはゴールを背にしてボールを受け、振り向きざまに右足を振った。中沢は寄せこそ甘かったがゴール正面のコースは切っており、問題のない対応だと思った。シュート力が低いアジアレベルではむしろ遠目からは打たせた方が楽だ。無理に距離を詰めると抜かれる可能性が出る。だがロナウドのシュートは想像を超えた。中沢の横を抜け、無情にもゴール右隅に突き刺さった。

相手のプレーに応じて動くDFは経験がものをいう。予測や想像できないことには対応しようがないからだ。中沢はそれ以来、Jリーグの試合でもロナウドの姿を頭に置き、シュートを打つ相手との距離を詰める取り組みを続けた。悔しい経験を咀嚼(そしゃく)し、DFとしての幅を広げた。「どのプレーが失点につながるかということに対し、90分を通してぴりぴりしないといけない」という信念は今も変わらない。

W杯ブラジル大会まで1年を切った。コンフェデレーションズカップで悔しい経験をした選手たちは、中沢と同じような思いで日々を過ごせるだろうか。不安そうな記者の顔を見ながら、ベテランは最後に付け加えた。「僕もまだブラジル行きを諦めていない。現役でいる以上は、常に日本代表を目指しています」。その足にはブラジル国旗が刺繍してあるスパイク。貴重な経験と熱意を伝えられる選手が代表メンバーの中にいてもいい。そう思った。

出嶋 剛(でじま・たけし)1980年生まれ、佐賀市出身。スポーツ紙で8年間勤務しサッカーなどを担当。2011年7月に共同通信に入社、大相撲とボクシングなどを担当、13年からはサッカーも。