元ドイツ代表監督のベルティ・フォクツは、自らの現役引退試合で激怒したことがある。所属するボルシア・メンヘングラッドバッハと対戦した当時の西ドイツ代表が、フォクツに花を持たせるために、わざとではないにしろ敗れたからだ。

「代表チームとは、いかなる場合でも敗れることは許されない」

火の玉小僧といわれた闘将のこの一言は、代表チームのユニホームを着ることがいかに名誉なことか。さらに責任感を持たなければいけないかということを的確に言い表している。

韓国で行われている東アジア・カップ。フォクツの言葉を思い出せば、たとえ初戦まで2日の準備期間しか取れなかったとしても言い訳はできないだろう。確かに敗れたわけではない。ただワールドカップ出場を決めている他の3カ国と違い、1カ月前にカマーチョ監督を解任し、これといったモチベーションがない格下の中国を相手に引き分けたという事実。それも2点のリードを奪いながら最終的に3―3に追いつかれたことは、いくら即席のチームであろうとも“代表"チームである以上、あってはならないことだった。

コンフェデレーションズカップでの惨敗を受け、新しい戦力を発掘する目的で初キャップの6人を先発させた中国戦。コンビネーション面で問題が発生することは明らかだったが、試合をぶち壊してしまったのは、意外にも、ザック・ジャパンで最も経験豊富な栗原勇蔵と駒野友一だった。

開始4分の栗原のPK献上。同じく後半35分の駒野のPKとなるファウル。さらに後半41分には駒野のサイドをロン・ハオに突破され栗原の背後から前に出たスン・ケーにダイレクトで合わされての3失点。その全てに本来は今大会の軸となる選手が絡んだのは、皮肉といえば皮肉だ。

特に日本代表で初キャプテンを務めた駒野は、どうしたのかというほどのひどい出来。キックも定まらず、ヘディングの目測を誤って「かぶる」場面も。2010年10月、同じソウル・ワールドカップ競技場での日韓戦で骨折したことがトラウマになっているのではないかというほど、普段とはかけ離れたレベルだった。

「特に後半はこれだけ暑い気候の中で普段は起こらないミスが起こった」

ザッケローニ監督は、肌にまとわりつくような高温多湿の気象条件が、選手たちのプレーに影響を与えたと語った。コンディショニングが難しかったのだろう。実を言うと前日、駒野は高橋秀人と共に途中で練習を切り上げている。それがコンディションの問題であったとしたならば、何で起用したのかという疑問符が付く。

チームとしての機能はともかくとして、日本代表の基本布陣ともいえる4―2―3―1で戦ったことを考えれば、結果はもちろんであるが今回の最大の焦点は、コンフェデ組に取って代われるタレントの発掘だった。日本の最大の弱点であるディフェンスラインには、残念ながらそのような選手は見当たらなかった。希望を持たせたのは、共に代表デビューを1得点1アシストで飾った、工藤壮人と柿谷曜一朗の2人のアタッカーだ。

今回の初キャップ組の中で工藤は「コンセプトを理解した上でアピールしに来た」と言うだけあり、攻撃だけでなく守備面でもチームの大きな力となった。ただこのポジションのレギュラー岡崎慎司と比較し、それを上回れるかとなると現時点では、可能性はまだ低い。その意味でコンフェデ組の前田遼一を一年後に抜きそうな可能性を見せたのは柿谷の方だろう。

前半はほとんどボールに触ることはできなかった。動きだしで勝負するタイプの選手だけに、周囲とのコンビネーションが微妙にずれていたのが関係した。「パサーに動きだしを見てというのをハーフタイムに伝えた」。柿谷の言葉通り、徐々にパスの出し手とリズムの合ってきた後半には1ゴール1アシスト。他にも後半19分に青山敏弘のロングパスから抜け出してGKと1対1の場面を作り出すなど、随所で才能の一端を披露した。

コンフェデ組の試合を見ていると、前田がオフサイドになることはめったにない。逆に柿谷はオフサイドに引っ掛かる。裏を返せばオンサイドの場合は、相手の守備ラインの裏に抜け出せるということだ。ワールドカップで格上と戦うことを想定した場合、カウンターという武器を持つことは必須。若い年代から注目された高い技術と、動きだしの早さは折り紙つき。柿谷が日本代表に入ることで、何かの化学変化が起こる予感はする。

「チームが勝てないゴールは喜べない」

試合後、そう言いながらも笑顔を絶やさない日本期待の星。柿谷が名誉ある代表チームのユニホームを着続けるためには、ザッケローニから守備のタスクを科せられることは間違いないだろう。その守備力の低さを差し引いても、期待を抱かせる攻撃センスだ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている