夏本番を迎えると、F1シーズンは前半が終了する。そして、ここから活発になるのが、ストーブリーグ、つまり来季のドライバーシート争いの動きだ。現在、F1チームは11チームしかなく、シートは22人分しかない。それを世界のトップドライバーたちが奪い合っている。もちろん、ドライバーの才能がもっとも重要な能力なのだが、日本のプロ野球のように、年間100名以上の単位で入れ替わりがある世界ではないので、野球のような各地方を歩き才能を探すスカウト部門機能を持つF1チームはほぼない。

逆にドライバー側からの売り込みやアピールを取捨選択していくのがやり方だ。そうなると、ドライバーに必要なのは、名前を知られることであり、次期ドライバー選択時の話題に入っていることとなる。そして、日本のF1ファンの多くが強く望んでいるのが、小林可夢偉の復帰だろう。

現在フェラーリと契約を結び、FIA世界耐久選手権(WEC)に出場するほか、フェラーリのプロモーション活動などに出席して、来年のF1復帰を目指している。そして今回、小林可夢偉のニュースが世界中のメディアを駆け巡った。ロシアのモスクワで行われたイベントでフェラーリF1マシンに乗ってデモ走行を行ったのだが、路面が濡れていたこともあり、マシンを壁にぶつけてクラッシュさせてしまった。

普通なら、「それは小林可夢偉の印象が悪くなるだけでは?」と思いがちだが、F1の場合、デモ走行のクラッシュは問題にはならない。というのも、時速100キロ以下のF1マシンはダウンフォースと呼ばれるマシンを押さえつける力がほとんど働かず、タイヤのグリップ力だけで走らなければならないのだが、F1マシンの車重はドライバーを入れても640キロ程度。車体が軽いのにタイヤは太く大きい。つまり、簡単にアクアプレーニング現象と呼ばれる、水にタイヤが浮き上がってしまう状態に陥り、コントロールを失ってしまう。雨天時のデモ走行は、その危険がレース以上に大きい。そうした事情もあって、今回のクラッシュニュースは、チーム関係者からすれば「あー、やっちゃったねー」程度の話なのだ。小林可夢偉の名前がF1関係者の間でベストなタイミングで話題になったと「怪我の功名」を期待したい。(モータージャーナリスト・田口浩次)