世界中のサッカー選手が憧れる舞台、ワールドカップ(W杯)開幕まであと1年を切った。過去にはジョージ・ベスト(北アイルランド)やエリック・カントナ(フランス)のように、W杯とは縁がなかった名選手も少なくない。4年に1度という周期のため、タイミングや巡り合わせによって運命を左右される選手もいる。その一人が、マンチェスター・ユナイテッドなどで活躍した元イングランド代表FWのアンディ・コールだろう。

5年前に引退し、現在はマンチェスターUのOBとして世界各地で普及活動などをしている。この春、東日本大震災の被災地を訪れるために初めて来日し、インタビューで自身の現役生活を「世界最大のクラブでプレーできた。とても運がよかったし、満足している」と振り返った。しかしW杯や欧州選手権を一度も経験できなかったのは、むしろ不運だったといえる。

プレミアリーグ通算187得点は、元イングランド代表のアラン・シアラーに次いで歴代2位の大記録だ。コールはニューカッスル時代の1993~94年シーズンにリーグ得点王に輝き、98~99年シーズンにはマンチェスターUの3冠(欧州チャンピオンズリーグ、プレミアリーグ、FAカップ)達成に大きく貢献するなど、クラブでは輝かしいキャリアを送った。対照的に、イングランド代表では95~2001年に、わずか15試合で1得点。W杯とも無縁で、94年の米国大会はイングランドが前年の予選で敗退。98年フランス大会は代表入りが有力視されながらも落選し、02年日韓大会のメンバーからも外れると、自ら代表引退を表明した。

現役時代の映像や写真では「いつも表情が険しくて、少し気むずかしそうな人」というイメージを抱いていた。実際、マンチェスターUの同僚だったFWテディー・シェリンガムとの不仲を公言し、W杯メンバーに選出しなかった代表監督を批判したこともあった。41歳になったかつての名FWは、さまざまな栄光と挫折を味わったことで角が取れたのか、インタビュー中は終始穏やかな口調で真摯に答えてくれた。マンチェスターUの“後輩"となった香川真司については「ドイツであれだけ活躍できたのだから、2~3年やってイングランドのスタイルに慣れればもっとよくなる」と期待を寄せた。そして最も興味深かったのが、日本サッカー界で長年指摘される「FWの決定力不足」について質問した時の答えだった。

「日本には欧州でも活躍している優秀なMFは多いが、FWが少ない。どうすれば世界レベルのストライカーを育てられると思うか?」と聞いてみた。第一声が「なぜ優秀な選手がFWにならず、MFばかりやるのか。その現象の方が逆に興味深い」だった。せっかく高い技術を持っているのであれば、中盤ではなくゴール前のポジションで生かす方が自然じゃないか、というニュアンスだ。そしてFWの役割については、「たしかに守備などの仕事もたくさんあるが、最終的には点を取らないといけない。90分間、何もできなくても、91分目(ロスタイム)にゴールを決めればヒーローになる。センターフォワードとはそういうものだ」。どん欲にゴールを求め続けることこそが、ストライカーの必須条件だと強調した。

「不運」にまつわる話がもう一つある。マンチェスターUは99年11月に当時のクラブ世界一を決めるトヨタカップで来日したが、直前のけがで遠征メンバーから外れた。その話を向けると「ああ、ギグジー(ライアン・ギグス)が車(最優秀選手の副賞)をもらってきた試合だね。あの時は楽しみにしていたから残念だった。でも今こうして日本に来られたんだから、人生はどう転がるか分からないものさ」と笑った。不運を決して不運と思わない精神力も、点取り屋に必要な要素なのかもしれない。

田丸 英生(たまる・ひでお)1979年生まれ、東京都出身。共同通信名古屋、大阪運動部を経て、09年12月から本社運動部。担当はサッカー、ボクシング、相撲。