確かに3年間を過ごした彼女との別れには寂しさもつきまとう。だが、自分が成長することを考えれば新しい出会いを求めなければいけない時期なのかもしれない―。

このような表現が正しいのかどうかは、よく分からないが、日本代表についても同じことがいえるのではないだろうか。思い起こせば3年前、岡田ジャパンはアジア予選とは違う新しい「彼女」、つまりシステムとメンバーの入れ替えを行ってワールドカップ(W杯)南アフリカ大会でベスト16進出を成し遂げた。そして、それまで絶対的な存在だった中村俊輔は、本田圭佑という若い才能にポジションを譲った。

アジア予選を戦ったメンバーにご褒美を与える場。現在の日本代表にとって、W杯本大会はもはやそのような舞台ではなくなった。結果だけが求められる非情のステージ。国民の多くが、その勝敗に一喜一憂する社会状況を考えても、勝利を得る可能性を高めるためのあらゆる手段を尽くさなければならないだろう。

新しい彼女を見極める場、東アジアカップが7月20日から韓国で開幕する。国際Aマッチデーではないために、海外組の招集は無理。さらに日本サッカー協会がJ2ガンバ大阪の遠藤保仁と今野泰幸を招集しないことを明言しているだけに、Jリーグで活躍するフレッシュな国内組をあらためて精査することになる。

アジア予選最終戦のイラク戦後にザッケローニ監督は「コンフェデレーションズカップが終わった後は、全員がスタート地点に立って、ゼロからのスタートが始まる」とチームを白紙に戻すことを明言した。とはいうものの、屋台骨は大きく変わることはないだろう。そのなかで最も効果のあがる手直しのピースは誰なのか。韓国ではW杯本大会の行方を左右する人材を探し出すことになりそうだ。

サッカーに興味のある人なら、誰もが自分の思い描くメンバーというのがあるのだろう。新進気鋭のストライカー柿谷曜一朗、さらに待望論の出ている田中マルクス闘莉王の復帰はあるのか。そのなかで個人的に注目しているのがボランチのポジションだ。

ブラジルのポルトガル語でいうボランチ。車のハンドルを意味するポジションは、現代サッカーにおいて文字通り、守備、攻撃の両面で試合の進行方向をつかさどる重要な役割を担う。そして現在の日本代表では、キャプテンの長谷部誠と遠藤が、このポジションを務める。この2人は自チームにボールがあるときに、より能力を発揮するタイプの選手だが、不安なのは守備に回ったときだ。アジアレベルではなんの問題もないのだが、先日のコンフェデ杯でも露呈したように世界のトップを相手にしたときの守備力には、少なからず不安が残る。3試合で9失点。そのすべてが彼らの責任ではないのだが。

本家ブラジルの伝統的な2ボランチ。「8番」と「5番」で組まれるコンビは、常に一定の法則がある。8番は攻撃力に優れ、一方の5番はセンターバックを務める守備能力を有しているということだ。現在のブラジル代表でいえば前者はパウリーニョ、後者はルイス・グスタボ。もっと分かりやすくいえば1988年W杯フランス大会のセレソンの2ボランチは、背番号もそのまま、8番はドゥンガ、5番はサンパイオというJリーガーがコンビを組んだが、この5番のポジション取りやプレースタイルは、日本の大きな手本となる。

今回のコンフェデ杯で優勝を飾ったブラジルで最も多くボールに触ったのは、ダニエウ・アウベスとマルセロのサイドバックというデータが発表された。これは内田篤人、長友佑都で攻撃の糸口をつかんでいく日本と共通している。ただ違うのは、ボランチの位置取りだ。ブラジルの場合、2枚のセンターバックの中央に5番のボランチが割り込む形で3バックを形成し、もし両サイドバックが攻め上がってボールを失ったとしても、相手の攻撃に対する守備の陣形がきっちりと準備されている。攻撃に出ていても守備のリスク管理ができているのだ。

Jリーグを見ていて、このブラジルでいう「5番」の役割を高レベルで難なくこなしている選手を発見した。浦和レッズの阿部勇樹だ。3バックとシステムこそ違うが、槙野智章、森脇良太のアタッカーと見間違うほど攻め上がるので、残っている那須大亮とのコンビで最終ラインを固めている。ボランチからセンターバックへ。そしてまたボランチへ。そのポジションの切り替えのうまさは、見る者をうならせるものがある。

南アフリカW杯でもアンカーを務めた守備力で、1対1でのボールの奪う能力は立証済み。さらに最終ラインのコントロールも巧みで、フィジカルに優れ、ヘディングも強い。そして持ち味は展開力。日本人には稀な低い弾道のスピードボールでのサイドチェンジをヴァンフォーレ甲府戦でも披露していた。年齢もまだ32歳。現在のJクラブのなかでは疑いなく最高のボランチといえる。だからこそ長谷部、遠藤のポジションに代わるという意味とは別に、ぜひ東アジア選手権では阿部を試してほしい。

これまで一貫して海外組を中心に編成されてきたザック・ジャパン。しかし、足元を見ると案外、新たな恋人がいるのかもしれない。そういえばザックさん、日本にはこんな歌があったではないか。「ほら、あなたにとって大事な人ほど、すぐそばにいるの」という名曲が。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている