7月7日初日の大相撲名古屋場所(愛知県体育館)で、エジプト出身の大砂嵐が新十両に昇進した。アフリカ大陸出身者が力士となること自体が、長い角界史上初めてで、また一つ多国籍化が進んだことになる。外国から来た力士と話していると、母国のことがテーマになることが多々ある。現在の相撲担当記者は新聞の国際面にも注意を凝らして読むが、海外出身力士との会話ではナマの外国情勢を聞ける勉強の場でもある。

度重なる膝のけがで、今場所平幕に転落した元大関把瑠都はエストニア出身。しこ名の通りバルト三国の一つで、2011年1月に欧州単一通貨ユーロを旧ソ連構成国として初めて導入した。それから約1年後、把瑠都は「物価が上がって経済が混乱し、みんな都会から田舎の方に引き揚げている。フィンランドみたいな大きな国だったらいいけど、ユーロにするのはちょっと早かったかもしれない」と神妙な面持ちで話した。それにしても、バルト海を挟んだ隣国の北欧フィンランドを“大きな国"と表現するのは、面積の小さいエストニア出身者ならではのことだろう。

千賀ノ浦部屋の幕下力士にハンガリー出身の舛東欧という力士がいる。春場所中の3月中旬に母国が強い風雪に襲われた。現地からの報道によると、多くの乗用車やトラックが立ち往生し、数千人が車の中や近くの建物で夜を明かした。本人によると、ハンガリーでは意外にも、3月に雪が降ること自体が珍しい。有線電話しかなかったひと昔前と違い、今はインターネットなどを通して海外と容易にアクセスできるようになった。実家と連絡を取ったそうで「たまたまその日が祝日で、仕事に行く人が少なくて良かったみたい。風がすごくて一歩も外に出られないと言っていた。異常気象だけど地球は大丈夫かな」と心配していた。

日本の政局の焦点は夏の参院選に移ったが、どこの国でも選挙は大きな関心事となる。電気料金の高騰をきっかけに反政府デモが拡大し、前の内閣が総辞職したブルガリア。5月12日に議会の選挙が行われ、どの政党も過半数を得ることができなかった。数日後、同国出身の大関琴欧洲は、かど番の夏場所中にもかかわらず、「誰も得をしない選挙だよ。不安定になっているからね」と心配顔だった。自身は千秋楽にかろうじて勝ち越しを決めて、かど番を脱出した。本人の成績も不安定だった。

白鵬、日馬富士の両横綱を輩出したモンゴルでは、6月26日に大統領選が行われた。モンゴル相撲の元横綱で国民的英雄、バトエルデネ氏の出馬で関心を集めた。知名度は抜群だったが、現職のエルベグドルジ氏に敗れた。幕内蒼国来は2年前の八百長問題関与で日本相撲協会を解雇されたものの、法廷闘争を経て身の潔白を証明し、名古屋場所での復帰を決めた。中国から来たが、出身は内モンゴル自治区でモンゴルの情勢にも明るい。選挙前「みんなバトエルデネのことが大好きだけど、今回はエルベグドルジさんが強い。次の選挙ならバトエルデネは通ると思うので、1回待った方がいいという意見も強いのに」と分析した。その予想どおりになった。

「ふるさとは遠きにありて思うもの」。新聞の国際面では大きな扱いではない記事であっても、異国の地で大相撲に打ち込む外国人力士たちにとっては大事なこともある。

高村 收(たかむら・おさむ)1973年生まれ。山口県出身。大相撲、ラグビーなどを経て03年からはゴルフを取材。その後、大相撲担当も兼ね10年からキャップに。