野球ファンにとって胸が高鳴る言葉だった。その響きからは、サッカーのように、トップ選手がしのぎを削り、競技者の目標となるフル代表を継続的に組織していくという意味合いが感じられた。これまでのところその意味は、日本代表をブランド化し、継続的に収益を上げるということにとどまっている。

3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に挑んだ日本代表は準決勝で敗れ、3連覇を逃した。苦しみながら東京での2次ラウンドを勝ち抜いた選手の必死の戦いには胸が熱くなった。それだけに、もっと早くから首脳陣を決めて大リーグ組にも参加を打診し、チーム編成を議論できていれば、と悔しさが募った。前回に続いて監督選考は迷走した。難しい立場を引き受けた山本浩二監督に責任を押しつけるのは気の毒だった。

選手側は大会前、変わらない日本野球機構(NPB)の準備過程に苛立ちを募らせた。昨年の7月、日本プロ野球選手会は臨時大会でWBC不参加を決めた。主な理由は、チームのスポンサー権が大会主催者にあることなど収益に関することだったが、背景にはNPB側が、故障のリスクを負ってWBCに出場する選手のために積極的に動かないことへの不満があった。球団側は重い腰を挙げ、NPB内に日本代表専門の事業部局設置を約束し、収益確保の方策を示して事態は収束した。NPB側が宣言したのが「代表の常設化」だった。

議論はビジネス面が先走った。NPBは、全日本野球協会(BFJ)とともにこの5月16日に「野球日本代表マーケティング委員会(JBMC)」の設立を発表した。大学や社会人などのアマや女子の日本代表もプロの「侍ジャパン」のユニホームで大会に出場し、スポンサー収入を得ることになった。雪解けが進むアマと協力し、野球振興を図る試みは画期的といえる。でも「プロの日本代表づくりは?」という疑問が大きかった。

より魅力的な強いチームで世界と戦う方策が置き去りにされてはいないか。それが野球ファンの一番求めるものではないのか。敗因の検証をせず、責任の所在さえあやふやでは4年後に予定されているWBCでの覇権奪還は難しい。日本代表「侍ジャパン」が、実態のないユニホームだけの存在にならないか、心配になる。

野球はサッカーとは違い、各国・地域リーグで毎日のように多くの試合をこなすため、国際試合を組むのが難しい。五輪実施競技から外れている現状では、トップチームで真剣勝負する場は限られる。だからこそ、WBCでの日本代表の活躍は、野球人気の浮上と野球人口の拡大に欠かせない。国際試合が少なくても、日本代表の編成担当者は置けるはずだ。それが監督であれば、なおのこといい。長期的に国内外の候補選手の動向を把握し、情報交換を続ければWBC直前に慌てることはないし、監督人事で迷走することもない。

NPBの日本代表専門事業部は、4年後までの事業計画を固めつつある。そこにファンにとって、より魅力ある「侍ジャパン」をつくる道筋が示されることを期待したい。

山川 岳(やまかわ・たかし) 1974年、札幌市出身。99年、共同通信社入社。2年目からプロ野球の近鉄から巨人まで5球団を担当。08年からはロサンゼルス、ニューヨーク支局でドジャース、ヤンキースなどを担当。12年末の帰国後はWBC、日本野球機構(NPB)を取材。