大リーグの取材現場では、非公開の日本のプロ野球とは異なり、試合の前後にクラブハウスが報道陣に開放される。規定通りに、試合の3時間半前に入ると、選手の姿はさまざまだ。仲間と談笑したり、トランプに興じたり、一人で音楽や読書にふけったり…。レッドソックスの上原浩治はリラックスしていることもあれば、時として疲労感をにじませて放心状態でいるときもある。「そら、疲れるよ」。その姿には、伝統球団で重責を担う38歳のベテランの苦労がにじみ出ている。

昨オフにレンジャースからフリーエージェント(FA)となり、10球団近くの争奪戦の末に、1年契約でレッドソックスに移籍した。メジャー5年目で3球団を渡り歩いた仕事人だ。昨季ア・リーグ東地区で最下位に沈み、再起を図るチームの最大の課題である、中継ぎ投手の目玉として迎え入れられた。

中継ぎは目立ちにくいが、勝利には欠かせない。先発投手が完投することは少ないため、さまざまな状況で起用される。上原は抜群の制球力と三振を取れる能力を評価され、レッドソックスのファレル監督は「終盤の重要な場面を任せる」と起用法を説明した。

「重要な場面」の解釈は広い。開幕当初は七回以降で同点か自軍が2点以内でリードした場面に限定して起用されたが、上原が力を発揮するにつれて、相手に2点以内でリードされていても、逆転の可能性にかけてマウンドに上がるようになった。結果的に、開幕1カ月でチームの試合数の半分近くで投げた。好調なチームへの評価とは対照的に、辛口のボストンのメディアがファレル監督に登板過多でないかと疑問符を投げかけるようになった。

ブルペンで心身ともに準備万全にしながらも、試合の展開で登板機会が流れることも多い。そんなときは「投げたのと同じぐらいの疲労感がある」とぐったりしている。新聞やテレビでは、先発投手なら勝敗、抑え投手ならセーブと一般的な結果が伝えられるが、中継ぎ投手のホールドという結果が伝えられることはない。どれだけ準備をしても、試合で投げなければ、評価されることもない。厳しいポジションだ。

今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表の田中将大投手(楽天)は調子が上がらず先発から中継ぎに配置転換された。一部のメディアが「中継ぎに降格」と表現したことに、上原は「自分は中継ぎという役割に誇りをもってやっている。降格という表現はおかしい。ばかにするな」と反発した。巨人時代にはエース、中継ぎ、抑えのすべてを経験した。日米合わせてプロ15年目。右腕一本で厳しい世界を生き抜いてきた意地と誇りがある。

大リーグは年間162試合を戦い、さらにポストシーズンが待っている。過酷な日程、移動もセットになる。「どこまで、行けるか自分でも分からない。アクセルを踏みっぱなしで、行けるところまで行く。それで壊れたらそこまで」と腹をくくっている。

われわれの報道が先発投手と野手が中心になっているのは事実だ。中継ぎ投手がきらりと光る瞬間、その陰の苦労を少しでも伝えることができたらと思う。

森本 任(もりもと・まこと)1998年、共同通信入社。プロ野球担当として阪神、日本ハムを担当。08年北京五輪、10年バンクーバー冬季五輪では柔道、スキーなどを取材。11年1月からニューヨーク支局で米スポーツをカバー。