「このコースでは、勝つチャンスがありながらいつも天気に悩まされてきた。ようやく今回、優勝できたのでスーパーハッピー」

「ドライコンディションでも表彰台を狙える仕上がりだったと思うが、ウェットコンディションでもいい走りをできる自信はあった。表彰台に上がれてうれしい」

「モトGPバイクで初めて経験するウェットレースで、表彰台を獲得したことの意義はとても大きい」

これらはそれぞれ、上から順に、5月19日の第4戦フランスGPで勝利を挙げたダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)、2位に入ったカル・クラッチロー(モンスター・ヤマハ Tech3)、3位のマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)のレース後のコメントだ。

彼らのコメントに明らかなように、フランスGPが行われるル・マンサーキットは、不安定な天候に悩まされることが多い。この時期は日本でいえば晩春から初夏に近づく気候だが、内陸部で緯度の高いル・マンの一帯は、時にコートが必要なほどの寒さになる。また、一度天気が崩れ出すと、あっという間に黒雲が上空を覆って氷雨が降り始める。実際に過去10年のデータを見てみても、10回中6回がウェットコンディションのレースだった。金曜の練習走行から日曜の決勝レースまでの全セッションに視野を広げれば、ほぼ毎年どこかのタイミングで必ず雨が降る、といってもいいほどだ。

今回のレースウィークは、金曜午前の練習走行1回目から土曜午後の予選までがドライコンディションで推移し、日曜午前のウォームアップ走行と午後の決勝レースがウェットコンディションになった。ドライとウェットでは最適なマシン状態の調整が異なり、雨になるとウェット専用のタイヤやブレーキシステムなどを使用することになるので、各チームは状況に応じた臨機応変な対応を迫られる。その迅速さや対応できる引き出しの多寡も、こういった変化の激しい状況下での勝負を左右する大きな要因になる。

選手やチームにとっては悩みの種となるこの天候も、フランスの観客たちにとってはあくまで日常の範囲内のようだ。ときに激しく降りしきる雨をものともせず、キャンプサイトはテントでびっしりと埋め尽くされ、全身濡れ鼠になることもまるで気にせず、フランスのファンたちは白い息を吐きながら観客席に座ってレースを愉しんでいる。

今年は、雨の中、3日間合計で16万1392人の動員を記録した。ちなみに、日曜午後の決勝時刻の気温はわずか12度という状態だ。こんな厳しい気象状況でも、レースを心から愉しむことのできる彼らこそ、レースファンの鑑、といってもいいかもしれない。(モータージャーナリスト・西村章)