サッカーの強豪、スペイン・バルセロナのエース、メッシがドリブルをしている時のトップスピードはどれぐらいの速さか。大リーグで活躍するイチローのヒットゾーンや守備範囲はどれぐらい広いのか。これまで漠然と「すごい」と感じていたアスリートの「能力」を最新のテクノロジーを用いて、数値で解析できる時代が到来している。

メッシやイングランドのマンチェスター・ユナイテッドの香川真司が契約するアディダス社ではサッカーシューズの足底にICチップを入れ、スピードや走行距離などを計測する技術を実用化した。北米プロリーグでは昨夏のオールスターチームとチェルシー(イングランド)との親善試合で試験的に選手がこのシューズを履いてプレーし、パフォーマンスを数値化した。元フランス代表のストライカー、アンリの走行距離はわずか1マイル(約1・6キロ)で、無駄にボールを追わず効率的に動くベテランのプレーが数字でも証明された形となった。この技術が進化し、ファンが手にする携帯端末などと連動すれば、日本代表の長友佑都がサイドラインを駆け上がった回数やその時のトップスピードの変化などが手元で瞬時に分かるようになる。お気に入りの選手の「ドクン、ドクン」という心拍数の上下動も一緒に体感できる。技術の発達が、サッカーの楽しみ方を変える可能性がある。

選手の動きを追う技術をトラッキング(追跡)システムといい、このシューズのようにデバイス(装置)を用いて行う方法の他に、最近ではビデオ映像を基にして自動的に分析する技術も発達している。欧州や米国にはスポーツ専門の映像分析会社があり、テニスやサッカー、大リーグで活用される。こうした動く人やものを映像で追跡するシステムは、軍事技術からの応用だという。

映像が競技に組み込まれたスポーツで、最も有名なのはテニスのライン判定だろう。四大大会や大きなツアー大会で導入されているのは、ホークアイ社の技術だ。複数のカメラで撮影した映像を瞬時にグラフィック化し、画面で再現する演出方法は観客の盛り上げにも一役買う。同社の技術はサッカーのゴール判定技術にも導入され、昨年末に日本で開催されたクラブ・ワールドカップ(W杯)で実用化された。今年6月にブラジルであるコンフェデレーションズカップでは、ドイツ企業が開発した「ゴールコントロール」というシステムが採用された。ホークアイよりも多い台数のカメラで撮影するこの技術がうまく運用されれば、2014年のW杯ブラジル大会でも活用される見込みだという。

いまは国際サッカー連盟(FIFA)主催の主要大会のみの導入だが、欧州の主要リーグでもゴール判定技術を採用する方向で動いている。ホークアイ社は2年前に日本のソニーが買収した。ソニーの担当者は「ソニーが持つテレビ放送の映像技術との相乗効果を考えている」と説明した。欧州ではスポーツ中継やニュース番組でトラッキング技術により得たデータを活用した放送も既に行われているという。映像やデバイスを用いた最新技術は、単に審判員の補助や競技の公平性を保つ道具だけではなく、スポーツの新たな魅力や価値を提供するために欠かせないものになりつつある。

吉谷 剛(よしたに・つよし)1975年、北海道出身。テレビ局勤務を経て2002年に共同通信へ。03年12月から07年まで大阪で阪神などを担当し、同年12月から東京で、横浜や大リーグ野球担当の後、卓球やテニスを含めスポーツ全般を幅広く取材。