アルベルト・ザッケローニが日本代表を指揮して以来、優勝した2011年のアジアカップも含めて内容的にはハラハラさせられる試合はあった。それでも最終的には勝ってしまう。日本はアジアでは頭一つ抜けた存在かなと思っていた。それだけに、3月26日にアンマンで行われた、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会アジア最終予選B組のヨルダン戦での敗戦は逆の意味で新鮮だった。

確かに敗れはした。それでもW杯出場ということだけを考えれば、大きな問題ではない。これは現実的には可能性は非常に少ないが、日本がオーストラリア、イラクの残り2試合に連敗しても、現在の日本の勝ち点13に届くのは残り3試合を残しているオーストラリアとイラク、残り2試合のヨルダンだけ。お互いが潰しあうので、日本がブラジル行きの切符、グループ2位を逃すのはイラクが勝ち点14になり、ヨルダンが日本と勝ち点13で並び得失点差で上回るケースだけ。現時点で日本は得失点差でヨルダンを16上回っていることを考えれば、奇跡が起きない限りひっくり返ることはない。もしそのようなことが起きたら。間違いなくサッカーのレコードブックに「珍事」として載せられるだろう。

ピッチ状況が悪いと伝えられていたが、普通にボールが走る芝生。アウェーにも関わらず、オーストラリア戦とは打って変わって公平なジャッジを下すイランのファガニ主審。さらに勝つことのみで望みがつながるヨルダンが、中東のチームにありがちなゴール前を固める戦法ではなく、攻める意思を持ったサッカーを展開した。これにより前半は間違いなく日本のサッカーが展開できた。サイド攻撃から数多く作り出されるチャンス。ただ足りないのは、ゴールという結果だけだった。

「前半5回も6回もいい形でゴールのチャンスを作った。でもサッカーは点を決めないと時には相手にやられる」。ザッケローニ監督の言葉はもっともだ。そして日本は、この子どもでも分かっている得点に対する意欲に欠けていた。

勝敗を分けるポイントを見れば、いくつかある。前半4分に左サイドを香川真司との鮮やかなワンツーで抜け出た清武弘嗣が香川にラストパスを送った場面は、ある意味では日本サッカーの最大の問題点だ。シュートに対する意識が希薄なのだ。あの場面で清武の前に立ちはだかるのはGKだけだった。GKを抜けばゴールである。なのにDFを引き連れている香川にパスを通し、さらに香川にシュートを打たせるプレーを選択するというのは、どう考えても確率が悪い。ヨルダンがゴール前に味方が揃っているのにも関わらず、左サイドからハイエルがGK川島永嗣を襲うシュートを選択したのとは、あまりにも対照的だ。

前半のアディショナルタイムに左CKからバニーアティアに許したヘディングでのゴール。4日前のカナダ戦に続くセットプレーからの失点は、守備になんらかの改善が必要だろう。このチームにはW杯南アフリカ大会のときのような中澤佑二や闘莉王のような「制空権」を支配する存在はいない。この日の先発メンバーを見ても、GK川島を除いたフィールドプレーヤーで身長が180センチを超えるのは吉田麻也、長谷部誠、前田遼一の3人だけ。セットプレーでの得点は、これほど効率的なものはないが、逆に失点はダメージが大きい。このあたりの修正はより長身の選手が揃う6月のオーストラリア戦に向けての課題だろう。

そして、この日の最大の問題は2失点目だった。酒井高徳のミスから端を発した後半15分のハイエルに許したドリブルシュート。あの場面はすべての選手が中途半端だった。コースに入られプレーを緩めた酒井高の悪い意味での諦めのよさ。さらに吉田の躊躇が見受けられたプレー。吉田はハイエルのプレーを遅らせるためのディレイ、もしくは振り切られる前にファウルでも止めなければいけなかっただろう。もちろんカードは受けただろうが、ライン際で行っていればこの日の主審だったらイエローですんだ可能性が高かった。加えて状況が見えていたにも関わらず、全力でカバーに戻らなかった内田篤人の反応の悪さ。コンディショニングの問題があったのかもしれないが、集中力を保っていれば防ぐことのできる失点だった。

いわゆる香川らしい、ペナルティエリアのなかで清武の浮き球のパスを受けて突き刺した後半24分のゴール。その直後に内田が倒されて得たPKだったが、結局は決まらなかった。そもそもPK=ゴールではないのだ。なぜならチームメートがあきらめても、GKだけは本気でシュートを止められると信じてプレーをしているからだ。

名手・遠藤保仁ではあってもPKを失敗することもある。サイドネットを襲った横のコースはよかったが、高さがGKの最も止めやすい弾道だった。GKにはPKキッカーと波長がぴったりと同調する瞬間があるものだが、あの瞬間はまさにそれだったのだろう。それを考えれば遠藤を責めるのではなく、ここはシュートを止めた相手GKを褒めるべきだろう。

アウェーのオマーン戦も、終了直前の得点で勝利し、結果オーライになりがちだった最終予選。しかし、勝利より敗戦から学ぶもののほうが大きい。その意味でヨルダン戦に敗れたことは、上を目指す日本の今後を考えれば気を引き締め直す意味でよかったのかもしれない。日韓大会を除いた過去3回、W杯出場は常に海外の試合で決まっていた。しかし、今回は歓喜の瞬間を日本で迎えられる可能性が高い。しかも相手は引き分けさえも許されないオーストラリア。白熱した試合のあとに、多くの日本人が喜びを共有できることも悪くはない。

ドイツに戻ったキャプテンの長谷部も、自らのブログでこう書いている。「この悔しさを意味あるものとする為にもまた今日から頑張っていきます。6月4日、日本の地で皆さんと喜ぶために」と。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている