国際オリンピック委員会(IOC)理事会のレスリングの五輪競技からの除外勧告を受け、世界のレスリング界が動いている。

国際レスリング連盟(FILA)は、勧告から4日後にはラファエル・マルティニティー会長(スイス)の責任が追及され、理事会で不信任決議を可決。5カ国語を話せるネナド・ラロビッチ理事を会長代行にするとともに、五輪V3のスーパースター、アレクサンドル・カレリン氏(ロシア)を特命理事に入れ、打開策をはかった。

会長更迭の「クーデター」はロシア主導で行われた。AP通信は5月初旬にFILAの緊急総会が行われることを報じており、カレリンを会長に擁立してIOCとの交渉に当たらせる道筋も想像できる。

筆者はカレリン氏を何度か取材している。とてもクレバーな人で、レスリング以外に何もない、という人ではない。2006年の世界選手権(中国)では、FILA席ではなく観客席で試合を見ているカレリン氏がいた。取材をお願いし、「なぜあの中(FILA席)に入らないのか」と聞くと、「本当のレスリング活動ができなくなるから」と答え、暗にFILAの役員がレスリングのこと以上に自身の名誉と保身を考えていることを指摘した。

インタビューでは、ガラガラの会場を見回し「これでいいと思うかい? もっと多くの人に愛されるスポーツにならなければいけない」とレスリングの人気のなさを危ぐし、「この(分かりづらい)ルールはよくない」と話した。マルティニティー会長に何度も取材したことがあるが、その種のコメントが返ってきたことは一度もなかった。

FILAの会長は、1972年から30年にわたって居座っていたミラン・エルセガン会長(ユーゴ)、同氏の側近から後を継いだマルティニティー会長と、レスリングをやったことのない人の就任が続いていた。選手経験がなければ駄目とは言わないが、今回の事態はその弊害が噴出した感じがしないでもない。

選手からの目線でレスリングを見られるカレリン氏の会長就任には期待ができる。最終結論が出るまでの時間は少ない。この難局にどう挑むか、「世界最強の男」の手腕に期待したい。(格闘技ライター・樋口郁夫)