2013年のJリーグ開幕まで、約2週間。各チームはキャンプも大詰めに入り新シーズンの形が徐々に見え始めてきた。

開幕が近づき、ファンの人たちはうきうきしている時期だと思うが、サッカーの楽しみ方はなにも試合を見るだけではない。頭の中で自分のお気に入りのチームを分析するだけでも十分に満足感を得られる。

まだリーグ戦が始まる前のこの時期、サポーターは自チームの今シーズンの戦力を考え、どの選手の組み合わせが最も力を発揮できるかに思いを巡らせているだろうが、その中でも想像を膨らませる大きな要因を占めているのが新戦力だろう。そして今シーズンも大久保嘉人や伊野波雅彦、興梠慎三ら日本代表クラスも含め、多くの選手が新天地を求めた。

選手が移籍する理由。それには様々な要因があるのだろうが、クラブを戦力外になった選手ではなく自らの意思で他のチームに移る場合、おおよそ2通りの理由が挙げられるだろう。まずトップ・ディビジョンでプレーしたいためにJ2に降格したチームから移籍する例だ。神戸をあとにした大久保や伊野波がこれに当たるが、ザック・ジャパンのメンバーに名を連ね、ワールドカップ出場を目指す伊野波の場合は、J1でプレーすることが不可欠だったといえる。そしてもう一つが、自らのステップアップのために、新しい環境を求める選手だ。

なにもサッカーに限ったことではないだろうが、選手の成長というのは常に新しい刺激を受け続けることが不可欠だ。特にサッカーの場合、Jリーグだけで完結しているのではない。世界につながっているのだから、上のレベルというのは果てしなく広がっている。

J1で優勝争いを演じ03年に年間順位3位、04年、05年に連続して4位。当時、千葉の指揮を執ったイビチャ・オシム監督は常にこう言い続けたという。「同じチームに安住するな。常にチャレンジしろ」と。その言葉を受け、阿部勇樹や羽生直剛、水本裕貴など日本代表キャップを持つ多くの選手が他クラブに移籍し、個人としての能力をさらに高めた。結果的にこれが日本代表のレベルアップにつながったことは間違いない。

サッカー選手に求められる資質の一つに適応能力がある。たとえ同じチームに居続けたとしても、監督が交代すればシステムや戦術も変わる。その都度、選手は求められる役割に自分を馴染ませていかなければならないのだ。その意味でレギュラーの確保されたチームを飛び出し、新たなチャレンジを行う選手は不安こそあるだろうが、一方で大きな飛躍のチャンスを得たことになる。新たな環境に順応できるということは、どのチームでもプレーできること。日本代表も順応力の高い選手が多いほど、チーム作りは容易になってくる。

今シーズン、まだ伸びしろのある期待の持てる選手たちが大きなチャレンジをする。チャンピオンチーム広島から移籍した森脇良太、鹿島を離れた興梠。浦和入りした2人は、日本代表経験もあり、間違いなくチームの中心だった。それでも新天地を求めたのは「新たな刺激を求めた」から。自らのレベルアップに対する貪欲な姿勢は、すべての選手が見習うべき心構えだろう。そしてロンドン五輪で活躍した鈴木大輔(新潟→柏)と東慶吾(大宮→FC東京)も新たなステージに挑む。鈴木の場合、一昨年のJリーグ王者柏の中でセンターバックのポジションを争う選手は近藤直也、増嶋竜也の昨年のレギュラーに加え、渡部博文など数多い。それでも「自信があるから移籍を決めた」と、発言には頼もしささえ感じさせる。

サッカーは、野球のように多くの選手を使い回せる競技ではない。公式戦では3人の交代枠を含めても1試合で出場できる選手は最大14人。確かにプロだからポジション争いを勝ち上がるのは当然なのだが、部外者から見ればかなりシビアだ。だからこそ、実力がありながらも監督の戦術やシステムに合わないことで出場機会に恵まれない選手は、他のスポーツ以上に簡単に移籍をするのだろう。

ドメスティックなスポーツなら、同じチームに長く留まるのもいい。しかし、サッカーはインターナショナルなスポーツだ。世界で最も多くの人数がプレーをしているだけに、戦術やシステムの変化も他の種目に比べ、恐ろしく早い。だからこそ現代の選手に求められるのは、状況にいち早く合わせられる能力。それが移籍によってのみ得られるわけではないが、少なくとも安定を投げ捨て、不確定な要素に新たにチャレンジしようとする選手たちの気概は称賛されるだろう。

すべての選手が成功するわけではない。当然、移籍が結果的に失敗だったといわれる選手も出てくるだろう。しかし、リスクを冒してもレベルアップを求める選手がいない限り、日本のサッカーはこれ以上強くはならない。スタジアムに歓声が戻ってくるまで、あとわずか。新加入選手が、従来の選手と調和してサポーターを喜ばせる。そんな光景を想像しながら、シーズンの開幕を待つのも、サッカーの楽しみ方の一つだ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている