仕事柄出張が多く、旅先の名物に舌鼓を打つのも楽しみの一つだ。ただ、海外では口に合わないものが多かったり、現地の料理に飽きたりと、どうしても米など和食や、慣れ親しんだ食事が恋しくなる。われわれは1度や2度の食事を抜いたところでどうということはないが、選手にとってはしっかり食べることも仕事の一つと言っていい。どこに行って何を食べても大丈夫、という者もいる一方で、ベストパフォーマンスを出すために食事の工夫をするアスリートも多い。

昨季から担当するスピードスケートは、シーズン中海外遠征が続き、1、2ヶ月に及ぶこともある。日本代表の女子選手は、トラベルクッカーを持参する選手が多いという。小さな角形の鍋をコンセントにつないで調理するもので、湯を沸かすことから米を炊くことまでできる。朝おにぎりを作って、試合会場に持っていくことが多いのだそうだ。最近は代表チームに同行する国立スポーツ科学センター(JISS)のスタッフもおにぎりを作ってくれるそうで、主に男子選手から注文が殺到している。

首脳陣も手慣れたもので、日本代表監督を務めることが多い今村俊明・日本スケート連盟スピード強化副部長は15年ほど前に購入したというトラベルクッカーを持ち運ぶ。自慢の逸品は袋ラーメン。地元スーパーで卵や野菜、にんにくなどの食材を買い込み、選手たちに振る舞う。私も先日、ハンバーガーチェーンに通い詰めてしまったロシアの田舎町でごちそうになり、おなかも心も満たしていただいた。

苦い思い出がある。昨年、バドミントンの取材でインドに出張した。胃腸がそれほど強くない私は厳重に対策を練って現地に向かった。日本食レストランの入った日本人出張者向けのホテルに泊まり、カップラーメンやレトルト食品を大量に持参した。歯磨きも日本から持ち込んだペットボトルの水を使用。完璧にインドのものをシャットアウトしたつもりだった。

ところが、滞在2日目には激しい腹痛に襲われ、まともに立っていられず、夜も眠れない状態になった。インドでうろうろしている狂犬病を持った犬におなかを☆(噛の米が人4つ)まれる夢で目を覚まし、トイレに直行するというまさに悪夢も経験した。

仕事どころではない体調で迎えた滞在4日目、ニューデリー支局長の案内で、文字通り腹をくくって地元のレストランに繰り出した。名物のタンドリーチキンとカレー、ナン、そして開き直ってラッシーも飲んだ。するとどうだろう、その夜にはあっさり痛みから解放され、インドカレーのあまりのおいしさに感激して精神状態まで回復した。それからは、インド料理三昧。何を食べても元気で、最初の苦しみはすっかり忘れてしまった。郷に入っては郷に従え、ということなのかもしれない。

以前、ある上司からアフリカ出張中に虫を食べて過ごしたという話を聞いた。「どこに行ってもその土地のものを食ってやっていかなきゃいけないんだ」と説かれた。その言葉通り、どんな場所、どんな環境でも普通に仕事ができるたくましさを身に付けたいと思う一方で、スケートリンクで選手がほおばるおにぎりをうらやみながらトラベルクッカーの購入も考え始めている。

菊浦 佑介(きくうら・ゆうすけ)1983年生まれ。鹿児島県出身。2006年共同通信社入社。福岡支社運動部、大阪支社社会部を経て10年5月から本社運動部で水泳、スピードスケートなどを担当。